Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 消化器
パネルディスカッション 消化器2 腹部point-of-care US

(S322)

地方の診療所での腹痛診療におけるPoint-of-Care USの実際

Usefulness of ultrasonography for the diagnosis of abdominal pain in a provincial clinic

豊田 英樹

Hideki TOYODA

ハッピー胃腸クリニック内科,消化器内科

Gastroenterology, Happy GI Clinic

キーワード :

【目的】
地方の診療所での腹痛診療おけるPoint-of-Care US(POCUS)の現状を検討する.
【対象】
腹痛のため2017年9~11月の期間にハッピー胃腸クリニックを初診で受診し,診察時に超音波検査(US)を施行した135例を対象とした.
【方法】
腹痛に対して施行したUS及び血液検査の結果を踏まえ最も可能性が高い診断名を一つ決定した.さらに上部・下部内視鏡検査が必要な場合は引き続き同院で施行した.USと内視鏡はすべて1名の内科医師が通常の診療時間内に行った.CTなど追加検査や入院治療・手術を要する症例は後方支援病院に紹介し,CT・MRIなど画像診断や手術所見・病理結果から紹介病院で下された診断名を最終診断とした.機能性疾患の診断はUS・内視鏡・血液検査結果・症状・治療への反応性から総合的に判断した.
【結果】
腹痛患者135例中54例(40%)で腹痛の原因と考えられる所見を認めた.US診断の内訳は,消化管疾患40例(29.6%)(細菌性腸炎:13例,虚血性大腸炎:8例,ウイルス性腸炎:6例,急性虫垂炎:4例,結腸憩室炎:2例,急性胃粘膜病変・十二指腸潰瘍・虫垂憩室炎・結腸癌・小腸閉塞・小腸通過障害・移動性盲腸:各1例),胆道系疾患7例(5.2%)(胆石症:6例,総胆管結石:1例),婦人科疾患4例(3.0%)(卵巣腫瘍茎捻転:3例,癌性腹膜炎(精査にて子宮癌腹膜転移):1例),泌尿器疾患2例(1.5%)(尿管結石,尿間膜膿瘍:各1例)原因不明の大網の炎症:1例であった.虚血性大腸炎・急性胃粘膜病変・十二指腸潰瘍は内視鏡で診断を確定した.病院に紹介したのは急性虫垂炎4例,虫垂憩室炎・結腸癌・小腸炎の各1例,胆道系疾患7例,婦人科疾患4例,泌尿器疾患2例,大網炎1例の合計21例で,US診断と最終診断が異なっていた症例はなく,USにて骨盤内腫瘍による癌性腹膜炎と考えた症例はCTにて子宮癌腹膜転移と診断された.腹痛の原因となる器質的疾患の所見を認めなかった症例は81例(60%)で,そのうち27例(20%)は機能性ディスペプシア及び胃食道逆流症,4例(3.0%)は過敏性腸症候群,12例(8.9%)はいわゆる「ねじれ腸」,1例は癒着,1例は虚血性腸炎治癒後と考えられた.1例はBMI44.8と高度肥満症例でUS観察困難のため病院に紹介しCTにて胆石膵炎と診断された.残る35例(25.9%)(無症候性の胆石を1例含む)は腹痛原因が不明のため経過観察したが自然に腹痛は消失し問題となった症例はなかった.慢性的な腹痛出現部位に大腸ガスや便の貯留が認められ「ねじれ腸」と考えられた症例は大建中湯,モサプリドクエン酸,腹部マッサージなどにて症状は改善した.
【考察】
腹痛の原因がPOCUSにて器質的疾患と考えられた55例のうち53例(96%)は正診,2例はおおむね妥当な診断と考えられ,診断ができなかったのは高度肥満症例1例のみであった.POCUSにて腹痛の原因と考えられる器質的疾患を指摘できなかった81例中31例(37.2%)は機能性消化管障害であった.
【結論】
診療所での腹痛診療おけるPOCUSは治療方針の決定や紹介の必要性の判断の際に極めて有用であった.診療所での腹痛症例の63%(85/135)は消化管が原因と推測され,消化管USの習得は腹痛診療におけるPOCUSにおいて必須であるが,婦人科や泌尿器科疾患など腹部全体を観察することが求められる.