英文誌(2004-)
特別プログラム・知を究める 消化器
パネルディスカッション 消化器2 腹部point-of-care US
(S322)
在宅と一般外来での腹部point-of-care US
Point-of-care US of Abdomen at Home care medicine and General Outpatient Department
水間 美宏
Yoshihiro MIZUMA
東神戸病院内科・在宅科
Department of Internal Medicine and Home Care Medicine, Higashi-Kobe Hospital
キーワード :
【はじめに】
在宅と一般外来診療に,ポケットサイズの超音波装置を用いて腹部point-of-care US(POCUS)を行ない,その位置づけ,対象部位,診断能を示し,消化器・腹部血管疾患での基本的なプロトコルを考える.
【対象と方法】
2017年8月7日から11月29日までに在宅と一般外来でPOCUSを実施した213人中,腹部を検査した100人を対象とした.その内訳は男46人,女54人,平均年齢は63歳だった.使用装置はGE社製のVscan Dual Probeで,周波数1.7~3.8MHzのセクタと3.4~8.0MHzのリニア方式のプローブを使用した.この装置を常に白衣のポケットに入れ,在宅と一般外来で診療を行なった.診療では,問診,視診,触診,聴診により鑑別すべき疾患を定め,その疾患の診断に必要な部位で走査した.右肋間・背部走査では肝内胆管拡張,胆嚢腫大,右胸腔内液貯留,右腎盂拡張の有無を,心窩部走査では胃拡張,膵腫大,心腔内液貯留の有無を,左肋間・背部走査では左胸腔内液貯留,左腎盂拡張の有無を,腹部正中走査では大動脈限局拡張,腸管拡張の有無を,下腹部走査では腹腔内液貯留,腸管拡張,直腸内便貯留,膀胱拡張の有無を見るよう努めた.左右の肋骨弓下走査は,慢性肝疾患があるが通常の超音波検査ができない時に,肝腫瘤の有無を見るため追加することにした.
【結果】
腹部POCUSを行なうきっかけとなった症状は,多い順に,上腹部痛21例,下腹部痛15例,発熱10例,便秘8例,肝障害7例,右側腹部痛6例,血尿5例,腹部全体痛4例,臍周囲痛4例,腹部腫瘤4例,左側腹部痛2例,黄疸2例,嘔吐2例,下痢1例,その他9例だった.走査部位は,多い順に,下腹部走査53例,右肋間・背部走査47例,心窩部走査33例,左肋間・背部走査23例,腹部正中走査9例だった.診断された主要な消化器・腹部血管疾患は,走査部位別に,下腹部走査からの虚血性腸炎4例,腹水を伴う膵癌1例,虫垂炎1例,右肋間・背部走査からの閉塞性黄疸を伴う膵癌1例,閉塞性黄疸を伴う胆管癌1例,肝細胞癌1例,胆嚢炎1例,胆嚢癌1例,心窩部走査からの膵癌1例,腹部正中走査からの虚血性腸炎1例,腸閉塞1例,腹部大動脈瘤2例だった.この他に閉塞性黄疸を伴う膵癌の1例は,主訴が下腹部痛で黄疸に気づかず,下腹部走査のみを行なったPOCUSでは見逃された.
【考察】
訪問診療や往診ではノートパソコン型の超音波装置を使用していたが,検査の予定がない時は車に置き,予定外の検査が必要と感じても取りに行けなかった.そこでポケットサイズの超音波装置を常に白衣のポケットに入れることにした.腹部以外のPOCUSでは既存のプロトコルを用いたが,腹部では,問診,視診,触診,聴診の結果,鑑別すべき疾患を定め,その診断に必要な部位で走査した.その結果多くの重篤な消化器・腹部血管疾患を診断することができた.しかし下腹部痛を訴えた患者の閉塞性黄疸を見逃したことや,頻度の高い走査部位であることから,右肋間走査は必須と考えた.やはり頻度の高い下腹部走査と,腹部大動脈瘤や腸閉塞を診断するための腹部正中走査も必須と考えた.以上より,POCUSの消化器・腹部血管疾患での基本的なプロトコルは,右肋間・腹部正中・下腹部走査にて,肝内胆管拡張,胆嚢腫大,大動脈限局拡張,腸管拡張,腹腔内液貯留の有無を見て,閉塞性黄疸,胆嚢炎,大動脈瘤,腸閉塞,腹水を見逃さないことと考えた.
【結語】
今後は消化器・腹部血管疾患を疑えば,右肋間・正中・下腹部走査を必ず行なうことにして,その結果を報告したい.