Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 消化器
シンポジウム 消化器5 肝臓 エラスト エラストグラフィは何を見ている?

(S306)

2D Shear wave elastographyにおける肝腫瘍診断

Diagnosis of liver tumor by sonographic 2D shear wave elastography

長沼 裕子, 石田 秀明, 宇野 篤, 大山 葉子, 長井 裕, 小川 眞広, 黒田 英克

Hiroko NAGANUMA, Hideaki ISHIDA, Atushi UNO, Yoko OHYAMA, Hiroshi NAGAI, Masahiro OGAWA, Hidekatu KURODA

1市立横手病院消化器科, 2秋田赤十字病院消化器科, 3市立大森病院消化器科, 4秋田厚生医療センター臨床検査科, 5NGI研究所, 6日本大学病院消化器肝臓内科, 7岩手医科大学消化器内科肝臓分野

1Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, 2Department of Gastroenterology, Akita Red Cross Hospital, 3Department of Gastroenterology, Ohmori Municipal Hospital, 4Department of Medical Laboratory, Akita Kousei Medical Center, 5New Generation Imaging Laboratory, 6Department of Gastroenterology and Hepatology, Nihon University Hospital, 7Division of Gastroenterology and Hepatology, Iwate Medical University

キーワード :

Shear wave elastography(SWE)は超音波push pulseにより引き起こされた剪断弾性波の伝搬速度を測定し表示する技術で,超音波装置はその測定値を表示している.これはある範囲内の測定値の空間分布をカラー表示している2DSWEにおいても同様である.2DSWEを用いた肝腫瘍の性状診断に関する報告がなされているが,安定した見解が得られるまでには至っていない.今回我々は,この点について再検討し若干の知見を得たので報告する.
【仮説】
想定される剪断弾性波の動き:組織内を伝搬する剪断弾性波においても周囲肝組織-肝腫瘍の境界面で屈折と反射が生じる.その反射は,通常の超音波の伝搬同様Snellの法則に従い,反射も剪断弾性波伝搬速度×密度の比で規定される.これは,診断に用いられる通常の超音波と同様ではあるが,通常の超音波の伝搬速度(1550m/sec前後)と肝硬変(1600/sec前後)の組み合わせでは4%程度の差異であるのに対し,剪断弾性波の伝搬速度では,正常肝1.4m/sec程度,肝硬変2m/sec程度と40%近い差異がある.肝腫瘍に関しては,現在まで伝搬速度は正確に計測されていないが,さらに大きな差異があるとも考えられる.周囲肝組織-肝腫瘍の境界面で屈折した剪断弾性波を,通常の超音波の往復を基にした情報のみで(補正無しで)測定し,そのまま表示するとすれば,肝腫瘍内の剪断弾性波の伝搬速度を測定し得るのは腫瘍の中心を方位方向に通過する一線のみとなる.一方,境界面における反射も,剪断弾性波の場合,通常の超音波の場合よりも大きいと考えられる.境界面では伝搬する剪断弾性波とその反射波が複雑に干渉しあうため,腫瘍の性状をある程度示していても正確さが欠如し,解析も困難と考えられる.
【臨床検討】
以上の仮説をふまえ,臨床例の検討を行った.超音波診断装置:東芝社製Aplio500,i800.肝腫瘍(26例)に関し,周辺肝(a),腫瘍近傍の肝組織(b),腫瘍-肝組織境界部(c)のSWE値を腫瘍の中心を通る仮想線上で測定した.また,(b),(c)が(a)より何%上昇したかを求めた.腫瘍の内訳は,HCC5例,肝転移10例,肝血管腫8例,その他3例.参考として,肝嚢胞10例に関しても同様の検討を行った.
【結果】
肝転移では(b-a)/a,12.2%,(c-a)/a,52.4%と腫瘍の境界部でSWE値が急に上昇した.肝血管腫では(b-a)/a,2.3%,(c-a)/a,5.5%と同程度のSWE値を示した.HCCでは数値がばらつき一定の傾向をつかめなかった.肝嚢胞では(b-a)/a,9.0%,(c-a)/a,72.2%と境界部でSWE値が上昇した.
【まとめと考察】
肝腫瘍においては,音響学的性質の異なる領域が複雑に不規則に混在した状態で,屈折と反射が入り交じった情報であるため,安定した結果を提示することは考えにくい.ただ,血管腫においては比較的安定したSWE値が得られ,剪断弾性波が周囲肝と近似した伝搬を示すためと想定され,2DSWEは血管腫の診断には有用である可能性がある.その場合,腫瘍の中心を通って方位方向に延びる一線上のSWE値を測定でき,それをプロットしてグラフ化して活用できるとよいと思われた.一方,肝嚢胞周囲のSWE値が高いのは境界面における反射によると思われ,2DSWE診断を考えたとき興味ある結果であった.