Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 循環器
パネルディスカッション 循環器4 ガイドラインの鵜呑みで本当にいいの?

(S271)

拡張能ガイドラインに物申す:いろいろな指標を使ってもいいじゃないか

Recommendations for the evaluation of left ventricular diastolic function by echocardiography is OK?: It is OK to use various indicators

竹田 泰治, 松崎 七緒, 樋口 義治

Yasuharu TAKEDA, Nanao MATSUZAKI, Yoshiharu HIGUCHI

大阪警察病院循環器内科

Cardiovascular division, Osaka Police Hospital

キーワード :

左室駆出率が保持された心不全(heart failure with preserved EF; HFpEF)は心不全症例の半数近くを占め,その予後が不良であると明らかにされている.HFpEF の病態には左室拡張能障害が関与していると認識される一方,確立した左室拡張能の非侵襲的評価法がないために,その診断に苦慮することがある.これに応えるために,2009年に心エコー法による左室拡張能評価ガイドラインが示され,2016年に改定された.2009年のガイドラインには多くの指標が用いられ,左室拡張能,左室充満圧上昇の評価が過度に複雑なってしまった.これに対して,左室拡張能評価を簡素化し,日常診療に使えるものにするということが2016年のガイドライン改定のコンセプトになっている.具体的には,2016年のガイドラインでは,肺静脈血流速波形から得られる指標,急速流入期左室流入血流の左室内でのflow propagation velocity,Valsalva法を用いた左室流入血流速波形の変化,左室流入血流速波形拡張早期波(E)と組織ドプラ法を用いた僧帽弁輪部拡張早期波(e’)の開始時間の差,E波の減衰時間はガイドライン上のアルゴリズムの評価指標からは削除されている.これらの指標によっては,手技が安定せず,検者間誤差が大きいもの,そもそも日常の時間の限られた一般臨床においてはなかなか計測されないものが含まれているのは事実である.実際,2016年のアルゴリズムに導入されている左室流入血流速波形,e’,あるいはそれを混合した指標(E/e’),三尖弁逆流ピーク血流速,左房容積係数は,いずれも比較的簡便に得られる指標であるので,忙しい日常診療にも活用しやすいアルゴリズムであるといえる.一方,個人的には今までにその有効性を感じていた肺静脈血流速波形から得られる指標,Valsalva法を用いた左室流入血流速波形の変化,E波の減衰時間がはずれた現在のアルゴリズムで,本当に正しく診断できるのか,という純粋な疑問も湧いてくる.実際,2016年のガイドラインのアルゴリズムの信頼性は検証されていない.ただでさえでも悩ましいHFpEFの拡張能評価において,少しでも武器(指標)を多く持ったほうが実臨床の診断につながっていくのではないかと個人的には考えている.また,その重症度評価においても,ガイドラインに示されている基準が,それほど単純ではないと感じているところもある.これらの疑問に対して,実際の症例を用い,改めて拡張能評価指標,左室充満圧指標の意義と限界についても考察しながら,新しいガイドラインに物申したい.