Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 基礎
シンポジウム 基礎6 高周波数超音波イメージングの現状と展開

(S228)

超音波音速顕微鏡のための非線形最小二乗法による音速推定

Sound speed estimation based on nonlinear least square method for ultrasonic sound speed microscopy

田中 直彦

Naohiko TANAKA

芝浦工業大学システム理工学部

College of Systems Engineering and Science, Shibaura Institute of Technology

キーワード :

【はじめに】
生体組織の音速分布を観察する超音波音速顕微鏡による,生体組織の特性化が進展しつつある.薄くスライスされた生体試料の音速は,試料表面と背面からのエコーの伝搬時間差から求められる.これらのエコーは時間軸上で重なり合って観測されるため,周波数領域におけるエコーの正規化スペクトルにARモデルを適用して伝搬時間差を推定する方法[1]が用いられてきた.従来のARモデルに基づく方法では,正規化スペクトルの位相回転は推定できるものの,位相回転が周波数に比例するという条件が付与されておらず,これによりロバスト性が損なわれている可能性があった.そこで本研究では,従来法の問題を解消する非線形最小二乗法に基づいた正規化スペクトルの位相回転推定法を検討した.
【方法】
生体組織の音速を求めるために,生体組織からのエコースペクトルを,生体組織が存在しない場所のステージからのエコーで除した正規化スペクトルがまず生成される.生体組織からのエコーが組織表面と背面の2成分から成る場合,正規化スペクトルは2つの回転成分の和で表され,それぞれの回転量がそれぞれのエコー成分の伝搬時間差に対応している.正規化スペクトルは,求めたいエコー成分のパラメータ(振幅と位相回転量)に対して非線形の関係にあるため,非線形最小二乗法により,それぞれのエコー成分のパラメータを推定する.この推定では,まずパラメータの初期値を与え,初期値近傍の正規化スペクトルモデルを線形近似した上で初期値の補正量を推定する.この補正量で初期値を補正し反復推定することによりパラメータの推定量を得る.今回検討したアルゴリズムは最急降下法に相当する.
こうした非線形推定においては,ローカルミニマムの問題が不可避であり,ここで扱う正規化スペクトルのパラメータ推定も例外ではない.ただし生体組織の音速を観測しようとする場合,組織の音速や厚みは,ある限定された範囲に収まることが期待できる.そこで音速と厚みの推定範囲を設定し,この範囲内で初期値を複数設定してそれぞれ推定を行い,推定誤差が最小となる結果を推定結果として採用する方法を考えた.計算機シミュレーションによる検討では,設定する初期値の数にほぼ比例して,正しく音速推定ができる範囲が拡大することを確認している.
【結果】
超音波音速顕微鏡で得られた生体組織のエコーデータを,従来法と提案法のそれぞれに適用し,音速推定結果を比較した.従来法では音速推定結果が異常と考えられる画素が散見され,実際の装置ではメジアンフィルタを用いて異常データが除去されている.これに対し提案法による結果では,異常データが大幅に減少していることが確認できた.
【まとめ】
超音波音速顕微鏡のための新しい音速推定法について検討している.提案法では低S/Nなどの悪条件下においても,より安定に音速が推定できる可能性がある.今後は多成分モデルにおける適切な初期値設定法について検討する予定である.
[1]田中直彦・他 「生体組織用超音波顕微鏡のためのエコー成分推定法」 電子情報通信学会技術研究報告 US2005-19(2005-06)