Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 基礎
シンポジウム 基礎6 高周波数超音波イメージングの現状と展開

(S228)

超高周波超音波による生体組織の音響特性解析およびマルチスケール定量診断への応用

Acoustic characterization of biological tissue by ultra-high frequency ultrasound and its application to multiscale quantitative diagnosis

山口 匡

Tadashi YAMAGUCHI

千葉大学フロンティア医工学センター

Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University

キーワード :

 超音波診断において,診断能を病理診断に匹敵するレベルにするためには,通常の病理診断において光学顕微鏡で観察される細胞以下の組織についての音響特性を知る必要がある.超音波計測の距離分解能は基本的に周波数に依存するため,数百MHz帯の超音波を用いて生体組織を観察することでミクロレベルの生体計測が可能であるが,観察可能な組織サイズが数mmに制限されるなどの問題がある.そこで我々は,超音波診断装置で使用される数MHz帯から1 GHzの周波数で生体組織を計測可能な汎用超音波スキャンシステムを構築することで100 mm×100 mmの範囲を高密度走査で計測可能とし,各種の生体組織について二次元・三次元の音響特性解析を行っている.
 特に検討を進めているのは肝臓である.正常,単純性脂肪肝,NASH,および重度肝炎のラット肝臓を摘出し,各々の一葉の割面がポリスチレンシャーレ上に密着するように固定したのち,シャーレ下面から水を介して中心周波数80 MHzの超音波を照射して二次元スキャンすることで,各肝臓表面における超音波の入射しにくさの指標である音響インピーダンスを算出した.その結果,正常な肝臓に比して肝炎の肝臓の音響インピーダンスが有意に高く,脂肪肝とNASHは両者ともに肝臓内に脂肪沈着を有する状態であるにもかかわらず,音響インピーダンスは異なる値を示した.これは,脂肪肝ではリノール酸,NASHでは癌化の傾向が強いオレイン酸が多量に含まれており,両者の音響インピーダンスが異なるためであることをガスクロマトグラフィによる脂肪酸分析や脂肪酸および培養細胞の音響特性解析によって確認している.すなわち,肝細胞や線維の質の違いだけでなく,脂肪種の違いが検出できている.また,250 MHzの超音波での解析結果では,組織表面のみでなく内部の音響特性も解析可能である.
 より微細な組織についての物理的特性を評価するために,上記のラット肝臓をホルマリン固定後に8 mに薄切し,ガラスプレート上に留置することで未染色の生体組織標本を作製し,水を介して中心周波数250 MHzの超音波を標本上面から照射しながらスキャンすることで肝臓試料の表面および背面(ガラス面)からのエコー信号を取得し,生体内音速を算出しており,病理像で示される各組織の構造と音速との対応関係を光学顕微鏡に匹敵する空間情報として得ることが可能となっている.また,薄切標本の作製過程における化学的効果による組織変性を考慮し,凍結標本を用いた解析も進めており,これまでは困難であった軟組織にも対応可能となっている.
 これらの結果を生体内組織の定量診断に応用するために,同一の摘出組織に対するレオメータによる粘弾性評価や,生体内におけるSear Wave Elastographyを用いた生体内組織の横波音速評価,数MHz~数十MHz帯の超音波による観察と散乱特性解析などを併せて行っており,これらを計算機シミュレーションによって結びつけることで,複数のモダリティかつマルチスケールでの生体物性と性状との関係性について関連付けを進めている.