Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 領域横断
シンポジウム 領域横断3 新しい超音波イメージングの有用性と期待

(S190)

光超音波イメージング

Photoacoustic Imaging

椎名 毅, 戸井 雅和

Tsuyoshi SHIINA, Masakazu TOI

1京都大学医学研究科人間健康科学系専攻, 2京都大学医学研究科乳腺外科

1Human Health Sciences, Graduate School of Medicine, Kyoto University, 2Graduate School of Medicine, Kyoto University

キーワード :

 超音波は生体内での集束が容易であり,深部でも分解能を保った画像化が可能であるが,組織間のコントラストが低い.一方,光イメージングは,組織の表面を高分解能で観察でき,吸光特性の違いを用いて高コントラストでの組織鑑別などが可能であるが,生体内では光の散乱が大きく深部の計測は困難になる.
 光超音波イメージングは,光と超音波の相互作用である光音響効果を利用して,光計測における組織特異性と高コントラストを有し,同時に超音波計測の高深達度という双方の利点を併せ持つ新規生体イメージング法として開発された.  
 光超音波イメージングの原理は,ナノ秒という短時間で近赤外レーザー光を生体に照射すると,血液などの光吸収体に吸収されて,局所的な温度上昇により熱弾性変形を引き起こし,超音波が発生する.この超音波の周波数は吸収体のサイズで決まり,例えば径が0.1mm~1mmの球状の吸収体からの光音響波の中心周波数は1.5~15MHzとなるので,通常の超音波診断に用いるプローブの帯域とほぼ等しくなる.
 この光音響波を超音波プローブで受信し,音源である光吸収体の位置における音圧分布を再構成法する.再構成にはCTと類似の手法が用いられるが,高画質な画像を再構成するには,全周的に超音波を受信する必要がある.臨床応用では,角度制限を受けることが多く,その場合はアーチファクトが抑えるように再構成法に工夫がいる.最後に,音圧の大きさから組織の吸光係数の分布を得る.吸光係数は,光の波長により変化し,しかも組織に固有なスペクトルを示す.このため,レーザー光の波長を選ぶことにより,特定の組織の分布を可視化したり,酸素飽和度のように状態の違いを識別することが可能となる.
 このように,光超音波イメージングで得られる情報は,光計測と同様に組織の吸光係数に関するものであるが,超音波信号の再構成処理により深部においても高い空間分解能を持つことが可能になる.さらに,超音波センサを超音波エコー法のプローブとして用いて超音波像を得れば,超音波による形態と光超音波による機能イメージの融合が期待できる.
 このため,臨床応用としては,がん腫瘍の新生血管やリウマチ等の炎症性疾患に現れる微細な血管の分布の可視化,腫瘍の悪性度に関わる酸素飽和度などの機能情報の把握,動脈における脂質性プラークの検出等が可能となるため,それによる早期診断や良悪性の鑑別などへの応用が期待できる.無被曝,非造影なため繰り返し検査も可能で,経過観察や抗がん剤投与による治療効果のモニタリングにも適している.
 そこで,筆者らは,乳がん診断向けた,光超音波マンモグラフィ(photoacoustic mammography:PAM)の開発に取り組んでいる. PAM装置では,被験者の乳房を水浸し,下方からレーザー光の照射と半球面内に約500個の振動子アレイを配置したセンサを走査することで,乳房全体の0.5mm程度の微細な血管までその3D分布を画像化する.また,2波長のレーザー光を用いると,酸素飽和度の分布を得ることも可能である.現在,臨床データを蓄積し,病態とPAM像との関係について臨床評価を行っているが,腫瘍付近の血管は特徴的な分布を示すことが,分かってきている.
 さらに,H26年度から内閣府の革新的研究開 発推進プログラム(ImPACT)において,非侵襲的生体可視化技術としての光超音波イメージング技術の深化と生体以外への適用拡大を目的とした取り組みが進められており,新たなイメージング技術の進歩に向けて研究が加速することが期待される.