Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 領域横断
シンポジウム 領域横断1 超音波で全身を見る

(S182)

レントゲンを撮ると恥をかく!?~五十肩診療の常識・非常識2018~

Approach to the shoulder pain in middle and old age using ultrasound

皆川 洋至

Hiroshi MINAGAWA

医療法人城東整形外科

Joto Orthopedic Clinic

キーワード :

肩が痛い患者さんが外来に来た.疑われる疾患は?
******肩が痛い人への問診票******
1. 自分は「四十肩・五十肩」という自覚がある.
2. 外傷歴がある(肩をぶつけた,手をついて転んだなど).
3. 肩が痛くて腕を全く動かせない.
4. 腕を上に挙げる途中や下げる途中で痛い.
5. 腕を上げると肩の痛みが楽になる.
6. 腕を動かすと音がする.
7. 頚を動かすと肩が痛い.
8. 肩だけでなく,指先にも痛みやしびれが走る.
9. 食後に右肩が痛い.
10. 階段を登ると左肩が痛い.
**********************
肩こりの場所が痛い場合は頸椎疾患由来,上腕近位を痛がる場合は肩関節疾患由来のことが多い.稀に内臓疾患で肩が痛むことがある(胆嚢疾患:問診9,虚血性心疾患:問診10).病態が異なれなれば治療方針が変わるため,診療は主病態が頚由来なのか,肩由来なのか,それとも内臓由来なのかを区別することから始まる.中高齢者の肩痛を引き起こす頸椎疾患が頸部神経根障害で(問診5・7・8),68%が変形性脊椎症,22%が椎間板ヘルニアである(Radihakrishan,1994).症状は軽いものから激しいものまで様々で,NSAIDsが著効しない場合も少なくない.臨床所見から最も疑われる神経根を選択的に超音波ガイド下ブロックすれば,痛み・痺れを劇的に軽減できる.障害神経根はC7が最も多く(46.3-69%),C6(19-17.6%),C8(6.2-10%),C5(2-6.6%)と続く(Ellenberg 1994,Kuijper 2009).一方,中高齢者の肩関節疾患は1割しかX線診断できず(信原 1979),残り9割は通俗的病名である「五十肩」が使われてきた.X線診断できない肩関節疾患を五十肩と呼んでしまうと放置しても治らない腱板断裂と凍結肩を放置してしまい患者が不利益を被ることになる.腱板断裂は問診で簡単に予測でき(問診2・4・6),陽性的中率は外傷歴(57.4%)・painful arc陽性(40.5%)・動作時の轢音(62.5%)である(三笠 2001).しかし,プローブを肩に当てればその場で瞬時に腱板断裂と凍結肩は診断できる.腱板断裂は自然修復されないため,手術対象となる.一方,凍結肩は自然経過が非常に長く,何か月も夜間痛に悩まされることがある.凍結肩に対しては超音波ガイド下頸部神経根ブロック後のサイレント・マニピュレーションが著効する.肩が痛くて腕を全く動かせない場合は(問診3),石灰性腱炎であることが多い.その場で超音波ガイド下に石灰を除去すれば,劇的に症状を改善できる.ほとんど全ての肩関節疾患を瞬時に超音波診断・治療できる現在,中高年の肩痛に対する「まず,レントゲン」は非常識,「五十肩,放置すれば治る」「はい湿布・痛み止め」は患者に不利益を与えるお茶濁しと言えるかもしれない.