Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 腎泌尿器
腎泌尿器2

(S618)

術式決定に超音波検査所見が有用であった陰茎癌の一例

Usefulness of ultrasonographic findings to determine surgical approach in a case of penile cancer

大門 裕典, 皆川 倫範, 小川 典之, 齊藤 徹一, 鈴木 都史郎, 道面 尚久, 永井 崇, 小川 輝之, 石塚 修

Hironori DAIMON, Tomonori MINAGAWA, Noriyuki OGAWA, Tetsuichi SAITO, Toshiro SUZUKI, Takahisa DOMEN, Takashi NAGAI, Teruyuki OGAWA, Osamu ISHIZUKA

信州大学医学部泌尿器科学教室泌尿器科

Urology, Shinshu University

キーワード :

【症例】
74歳男性.
【経過】
5年前から陰茎に腫瘤を認めていたが,放置していた.増大を認めたため,前医を受診した.陰茎癌の疑いで,精査・加療目的に当科へ紹介受診した.陰茎亀頭部に表面不整な3cm大の腫瘤を認めた.造影CTで右浅鼠径リンパ節腫脹を認めたが,他に明らかな転移所見は認めなかった.病変が小さいため,CTによる深達度の評価は困難であった.右浅鼠径リンパ節転移を伴う陰茎癌であると考えた.陰茎癌であれば,陰茎部分切除術および右浅鼠径リンパ節郭清術を行うべき所見であった.しかし,腫瘍は陰茎癌の好発部位である包皮ではなく亀頭部にあり,リスク因子とされる包茎を認めなかった.また擦過細胞診では明らかな異型細胞を認めなかったため,陰茎癌であることに確信が持てなかった.術後のQOLや美容的な観点から,生検や腫瘍核出術も治療の選択肢と考えたが,その判断に難渋した.腫瘍の深達度評価目的に超音波検査を施行したところ,腫瘍は亀頭部に限局していて,尿道海綿体や陰茎海綿体への浸潤は認めなかった.また,ドップラー超音波検査で観察を行ったところ,腫瘍底部には多数の腫瘍血管を認め,亀頭部への浸潤は顕著であった.この所見から,腫瘍の核出や生検は不可能と判断し,陰茎部分切除術および右浅鼠径リンパ節郭清を施行した.病理診断は陰茎癌(扁平上皮癌)で,尿道海綿体や陰茎海綿体への浸潤は認めず,鼠径リンパ節に腫瘍を認めなかった(pT1a).術後半年まで再発を認めていない.
【考察】
陰茎癌は比較的まれな疾患であり本邦では診療ガイドライン等は存在せず,海外のガイドラインやさまざまな報告をもとに,それぞれの医療機関ごとに診断・治療を行っている.本症例は,肉眼的に明らかな陰茎癌と確信が持てず,治療方針を決定するのに難渋した.良性疾患であれば,陰茎部分切除及び鼠径リンパ節郭清を行った場合に患者不利益が大きい.プロスタグランジンE1の局所注入を併用した人工的な勃起状態下でのMRIが深達度評価に有効との報告もあるが,患者の負担が大きい.(文献1)また一般に陰茎癌の術前の臨床病期診断(cT)の的中率は74%を越える程度と決して高くはないという報告もある.(文献2)本症例では低侵襲で行える超音波検査を施行し,腫瘍深達度はT1であった.また,腫瘍底部の血流をドップラー超音波検査で確認することにより,危険を伴う核出術や生検を方針から除外し,適切な術式での対応が可能となった.結果的にも根治性の高い手術アプローチであった.
【結語】
本症例は陰茎癌の一例で,超音波検査を用いて適切に深達度評価と腫瘍周囲の血流の評価が可能であった.超音波検査が術式決定の補助として有用であったので,報告する.
1)Heyns CF.Mendoza-Valdes A and Pompeo AC. Diagnosis and staging of penile cancer. Urology.2010; 76: S15-S23.
2)Horenblas S, Van Tinteren H, Delemarre JF, et al. Squamous cell carcinoma of the penis:accuracy of tumor, nodes and metastasis classification system, and role of lymphangiography, computerized tomography scan and fine needle aspiration cytology. J Urol 1991; 146: 1279-1283.