仲村 将光, 大場 智洋, 新垣 達也, 瀧田 寛子, 松岡 隆, 関沢 明彦

Masamitsu NAKAMURA, Tomohiro OBA, Tatsuya ARAKAKI, Hiroko TAKITA, Ryu MATSUOKA, Akihiko SEKIZAWA

昭和大学医学部産婦人科学講座

Obstetrics and Gynecology, Showa University School of Medicine

キーワード :

【目的】
胎児well-beingは胎盤-臍帯-胎児の循環によって維持されており，その系に循環障害が生じることで胎児機能不全（NRFS）や胎児発育不全（FGR）が起きると考えられる．このような臍帯血流動態の変化は臍帯の構造的な異常を背景として起きることが多く，その結果，臍帯血流動態に変化が現れると考えられる．本研究では，新たな胎児well-beingの評価法として臍帯静脈流量（UV flow）の有用性を示すことを目的に以下の事項を検討した．
1．分娩時のUV flowの違いが分娩予後に与える影響
2．臍帯過捻転が原因と考えられるFGRおよび正常発育児におけるUV flowの推移の違い
【方法】
1．2015年4月から11月までの期間に分娩目的で入院した産婦を対象に，入院時にUV flowを測定することで胎児循環を評価した．臍帯静脈径（UVd）は，超音波ビームが臍帯静脈壁に垂直に当て計測カーソルがon-to-onで計測した．臍帯静脈流速（UVV）は臍帯静脈の中心にサンプルボリューム幅を2mmとし，流れに対して30度以内で計測した．UVdおよびUVvより求めたUV flow（ml/s）は，［UVd（cm）/2］2＊3.14＊UVv（cm/s）とした．FGR，NRFS，臍帯異常，羊水過少を呈した症例とそれ以外でUV flowの違いを検討した．
2．2013年4月から2015年6月に，妊娠中期以降の妊婦健診を施行し，分娩した症例を対象とした．妊娠中期よりFGRと診断され，臍帯過捻転が原因と考えられた症例をCaseとし，FGRおよび臍帯異常を認めず妊娠36週以降に分娩となった症例をControlとし，妊娠経過中のUV flowの推移を比較した．
【結果】
1．対象の152例中にFGRは4例，NRFSは11例，臍帯異常は21例，羊水過少は9例であった．UVd（cm）は，FGR 0.7±0.1，NRFS 0.8±0.2，臍帯異常0.7±0.2，羊水過少0.7±2.0，Control 0.8±0.2であった．UVv（cm/s）は，FGR 16.5±2.3，NRFS 18.3±9.5，臍帯異常15.3±4.2，羊水過少14.2±5.4，Control 15.6±4.6であった．UV flow（ml/s）は，FGR 6.1±2.3，NRFS 8.6±6.1，臍帯異常6.8±4.4，羊水過少* 5.1±2.6であった（*; p＜0.05）．
2．対象期間中に臍帯過捻転が原因と考えられたFGRは6例あり，FGRのないControlは97例であった．妊娠20週時のUV flow（ml/s）は，Case 3.3±1.3とControl 2.5±1.6（p=0.13）で有意差を認めなかったが，妊娠36週時では，Case 3.8±1.2とControl 8.1±1.8（p=0.015）と有意に高値を示した．Caseの6例の分娩週数［中央値（範囲）］は，37（35-38）週で，出生体重（平均±標準偏差）は2005±316g，出生体重SD値（平均±標準偏差）は-2.2±0.8，胎盤重量（平均±標準偏差）は441±74.6g，胎盤重量SD値（平均±標準偏差）は-1.1±0.6であった．Caseの4例では分娩前にUV flowが減少していた．また，それらはCTGでNRFSの所見を呈しており，全例が緊急帝王切開で分娩となっていた．
【考察】
比較的low risk妊婦を対象として，羊水過少を呈する症例のUVflowが有意に少なかったこと，FGRの原因が臍帯過捻転である場合に，分娩前にUV flowが減少していたことは，UV flowの多寡が胎児well-beingに影響することを示唆するものである．胎児well-beingの評価においてUV flowの評価が有用であることが示唆された．