Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般ポスター
血管

(S861)

骨粗鬆症治療薬(ラロキシフェン塩酸塩)内服中に発症した上肢深部静脈血栓症の一例

A case of upper extremity deep venous thrombosis on Raloxifene Hydrochloride

寺西 ふみ子1, 福岡 秀忠2, 細井 亮二1, 駒 美佳子1, 浅岡 伸光1, 渡部 徹也2, 星田 四朗2

Fumiko TERANISHI1, Hidetada FUKUOKA2, Ryoji HOSOI1, Mikako KOMA1, Nobuaki ASAOKA1, Tetsuya WATANABE2, Shiro HOSHIDA2

1八尾市立病院中央検査部, 2八尾市立病院循環器内科

1Department of Central Clinical Laboratory, Yao Municipal Hospital, 2Department of Cardiovascular Medicine, Yao Municipal Hospital

キーワード :

【症例】
70歳代女性
【主訴】
左上肢腫脹
【既往歴】
閉経後骨粗鬆症,胸椎圧迫骨折,糖尿病,高血圧,脂質異常症
【内服薬】
ラロキシフェン塩酸塩,ボグリボース,アムロジピン,アトルバスタチン,エチゾラム
【現病歴】
2011年に胸椎圧迫骨折を罹患して以降,閉経後骨粗鬆症の診断にてラロキシフェン塩酸塩の内服が継続されていた.2015年10月,臥位にて頸部に軽度違和感を自覚.その後,左上肢全体に腫脹が出現し左顔面にも浮腫を自覚するようになり,当院紹介受診となった.
【現症】
上肢血圧:右150/94 mmHg,左148/90 mmHg.心拍数84回/分・整,SpO2 97%(室内気),心音純,呼吸音清,頸部血管雑音聴取せず,明らかな顔面浮腫認めず,左上腕近位側〜左手指まで腫脹あり.左前胸部〜左上肢の表在静脈怒張あり.腋窩リンパ節触知せず.頸部リンパ節触知せず.下腿浮腫なし.
【検査所見】
(血液検査)WBC 9000/μl,RBC 433万/μl,Hb 13.8 g/dl,Ht 39%,PLT 18万/μl,D-dimer 2.9μg/ml,CRP 0.76 mg/dl,BNP 34.6 pg/ml,PT 11.3秒,PT-INR 1.0,APTT 26.3秒,ATⅢ活性86%,ProteinC抗原量131%,ProteinC活性115%,ProteinS抗原量105%,ProteinS活性100%,t-PA・PAI-1複合体23 ng/ml,ループスアンチコアグラント1.04 ng/ml
(超音波検査)上肢血管超音波検査では,左腕頭静脈〜左鎖骨下静脈〜左上腕動脈,左内頚動脈に血栓像を認め完全に閉塞.血栓性状は低エコーで不均一.血管径の拡大を認め,比較的新しい血栓を疑った.血栓は上大静脈付近にまで進展している可能性があったが中枢端は同定困難であった.同日の下肢静脈超音波検査では深部静脈血栓は認めず,心臓超音波検査でも右心負荷所見は認めなかった.
(造影CT検査)左腕頭静脈〜左内頸静脈,左鎖骨下静脈内に血栓像と考えられる造影欠損を認めた.肺動脈や上大静脈,下大静脈に造影欠損は認めなかった.
【臨床経過】
以上より,左上肢深部静脈血栓症の診断に至り,その原因としてラロキシフェン塩酸塩の副作用が最も疑われ入院加療となった.治療としてラロキシフェン塩酸塩の即時中止,抗凝固療法および血栓溶解療法の併用療法を施行.定期的に超音波検査と血液検査を実施.超音波検査では,左上肢の血栓は経時的に退縮傾向であったが,中枢側は依然として閉塞したままであった.血栓は残存するも上肢腫脹は改善したため,経過良好にて第15病日に退院.退院後も外来にてエドキサバン内服による抗凝固療法を継続中である.治療開始後1か月の超音波検査では,左内頸静脈内の血栓像は消失していたが左腕頭静脈の血栓像は依然として残存していた.
【考察】
ラロキシフェン塩酸塩は,第二世代のSERM(selective estrogen receptor modulator)に分類される閉経後骨粗鬆症治療薬であり,重大な副作用としての静脈血栓塞栓症は,海外で約0.18%,国内では約0.16%の頻度で報告されている.また,一般的に上肢深部静脈血栓症は下肢に比べて発生頻度が少なく,中心静脈カテーテル留置や担癌患者,Paget-Schroetter症候群などの報告は散見するが,ラロキシフェン塩酸塩の副作用による報告は極めて稀である.本症例の診断および治療経過追跡において超音波検査が有用であったので,若干の文献的考察を加えて報告する.