Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般ポスター
産婦人科 母体②

(S840)

前置胎盤として紹介されType IIの前置血管と診断された一例

A case report of Type II vasa pre via referred from clinic with diagnosis of placenta pre via

阿部 佳織, 長谷川 潤一, 中村 真, 鈴木 直

Kaori ABE, Junichi HASEGAWA, Shin NAKAMURA, Nao SUZUKI

聖マリアンナ医科大学産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, St. Marianna University School of Medicine

キーワード :

【症例】
35歳,1回経妊1回経産.自然妊娠の成立後,近医を受診した.胎嚢を3つ認めて,三絨毛膜三羊膜三胎妊娠と診断された.その後,他院で減胎術を施行し,単胎妊娠となった.その後の妊娠経過,胎児発育に特記すべきことは報告されていない.前置胎盤と診断されていたが,妊娠35週3日,周産期管理の依頼目的で当院の受診となった.出血や子宮収縮はなかったが,術前検査,自己血貯血のため入院とした.当院で施行した経腹超音波検査では,胎児推定体重は2342g,羊水量はAFI 19cm,胎盤の主な部分は右側前璧に2/3を占めており,内子宮口で一部後壁に分葉状に折り返すように続く胎盤を描出した.臍帯付着部位は後壁の胎盤実質につながっていたが,カラードプラで前壁と後壁に遊走する卵膜血管を描出した.詳細な経腟超音波検査を施行したところ,頸管長39mmの頸管の内子宮口周囲には,前壁から後壁にかけて胎盤実質を認めたが,内子宮口直上に認めなかった.その代わりに,内子宮口を覆う遊走する卵膜血管を認めた.これらの所見より低置胎盤および前置血管と診断した.入院後,軽い子宮収縮に合わせてdip様のvariable decelerationを認めたため,塩酸リトドリンの持続点滴を70μg/minで開始した.妊娠36週4日,選択的帝王切開術を施行した.左側前璧に胎盤を認めなかったため,子宮体部左側を縦切開し,卵膜に遊走血管のないことを確認して破膜,2734g(Apgar Score 1分値8点,5分値10点)の児を娩出した.胎盤は,超音波画像と同様に,前壁右側から後壁にかけて付着しており,内子宮口上を遊走する前置血管を確認した.胎盤は容易に剥離でき,出血コントロールも良好で,術中出血量は1107gで手術を終了した.娩出胎盤は,分葉状でその間は胎盤実質が委縮していた.委縮した分葉間を前置血管が走行していた.
【考察】
前置血管は,内子宮口上でワルトン膠質に守られないむき出しの臍帯血管が卵膜上を走行する状態である.超音波診断でしか診断できず,分娩前に未診断であると,破水などで胎児死亡に直結する異常である.本症例は前置胎盤と診断されていたが,妊娠中の子宮口付近の胎盤実質の委縮によって胎盤の表層血管が前置血管になったものと考えられた(Type II前置血管).前置胎盤は母体にとって重篤な異常であるが,前置血管はさらに児にとって危険な状態であるので,前置胎盤の場合,詳細な経腟超音波検査が必要であると考えられた.