光井 崇¹, 増山 寿¹, 江尻 健太郎², 江口 武志¹, 玉田 祥子¹, 平野 友美加¹, 衛藤 英理子¹, 早田 桂¹, 伊藤 浩², 平松 祐司¹

Takashi MITSUI¹, Hisashi MASUYAMA¹, Kentaro EJIRI², Takeshi EGUTI¹, Shoko TAMADA¹, Yumika HIRANO¹, Eriko ETO¹, Kei HAYATA¹, Hiroshi ITO², Yuji HIRAMATSU¹

¹岡山大学大学院医師薬学総合研究科産科・婦人科, ²岡山大学大学院医師薬学総合研究科循環器内科

¹Obstetrics and Gynecology, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences, ²Cardiovascular Medicine, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences

キーワード :

【緒言】
肥大型心筋症（HCM）とは，明らかな心肥大を来たす原因なく，左室ないしは右室心筋の心肥大を来たす心疾患であり，左室流出路狭窄を伴うものを閉塞生肥大型心筋症（HOCM）と呼ぶ．今回，我々は除細動器植え込み術後のHOCM患者の妊娠を継続し，生児を得た一例を経験したため，報告する．
【症例】
33歳．0経妊0経産．1年前にHOCMを指摘され，当院循環器内科にて内服治療中であったが，妊娠反応陽性にて当院産婦人科を受診された．外来にて妊娠管理を継続したが，妊娠25週6日にCTGにて頻回の子宮収縮を認めたため，切迫早産の管理目的に入院となり，子宮収縮抑制剤として硫酸マグネシウムを使用した．妊娠27週5日突然，SpO2の低下を伴う呼吸苦，起坐呼吸が出現した．胸部レントゲンでは心陰影の拡大，肺うっ血を認め，心臓超音波検査ではHOCMの病状が増悪しており，心不全，肺水腫を引き起こしていると考えられた．妊娠の継続は困難と判断し，緊急帝王切開術を施行した．出生児は体重999gの男児であり，アプガースコアーは1分値8点，5分値9点で仮死なく出生し，速やかに新生児集中治療室（neonatal intensive care unit: NICU）に入院となった．妊娠の終了とともに母体の心不全，肺水腫は改善し，術後経過良好にて術後10日目に退院となった．
【考察】
本症例は妊娠に伴う循環血漿量の増加と血管抵抗の低下により左室流出路圧較差や僧帽弁逆流症が増大し，心不全，肺水腫を発症したと考えられた．
【結語】
HOCMを合併した妊娠は，妊娠による循環動態の変動により原疾患が増悪することがあるため，妊娠を継続する場合は十分なリスクの説明と妊娠期間中の慎重な心機能評価が必要と考えられた．