Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般ポスター
甲状腺

(S834)

小児型甲状腺嚢胞長期観察例の超音波所見

A Long-term follow-up of thyroid cysts of juvenile type

紺野 啓, 鯉渕 晴美, 山本 さやか, 宮本 恭子, 谷口 信行

Kei KONNO, Harumi KOIBUCHI, Sayaka YAMAMOTO, Kyoko MIYAMOTO, Nobuyuki TANIGUCHI

自治医科大学臨床検査医学

Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
小児の甲状腺超音波検査(US)において,充実性腫瘤を伴わず,概ね1cm以下の嚢胞が両葉に多発する特徴的なパターンを呈する症例をしばしば経験する.一方,USの頻度も,USにおける嚢胞の検出頻度もはるかに高い成人で,こうしたパターンをみることはまれである.よってこれらは小児に特徴的な所見(小児型)と考えられ,若年期において,成人にみられる通常のパターン(成人型)へ移行することが推測されるが,これらに関する文献的記載は皆無である.今回我々は,若年者において,小児型と考えられる嚢胞を長期間経過観察し,嚢胞数の明らかな減少による成人型への移行を確認し得た1例を経験したため報告する.
【症例】
20歳,女性.家族歴・既往歴に特記すべきことなし.近医にて甲状腺腫大を指摘され,精査目的に受診.USでは両葉に1cm以下の多数の嚢胞を認めたが,充実性腫瘤は認めず,典型的な小児型の嚢胞と考えられた(図1a).明らかな自覚症状はなく,甲状腺機能も含め,血液生化学検査データにも異常を認めなかった.良性疾患として経過観察の方針となり,21歳時(図1b),24歳時(図1c),26歳時(図1d)にUSを含めて経過観察が行われた.USでは経時的に嚢胞数の明らかな減少が確認され,最終US(26歳時)では,両葉に3,4個の嚢胞を認めるのみとなった.経過中,充実性腫瘤は観察されなかった.また,USと同時に施行された血液生化学検査では,21歳時にみられた一過性のTSH上昇以外,明らかな異常を認めなかった.また21歳時に行われた血液免疫検査では抗サイログロブリン抗体,抗TPO抗体はいずれも陰性であった.
【考察】
本例において,初回US(20歳時)にて甲状腺に観察された嚢胞は,小児型の嚢胞の特徴を有していたが,6年間の経過を経て,26歳時には成人型へ移行したと考えられる.これまでは推測にすぎなかった小児型の甲状腺嚢胞の転機の一端が,実際に明らかにされた点で貴重な症例と考えられる.検査の機会に乏しいこともあり,これまで不明な点も多かった小児・若年者の甲状腺の状態は,福島第一原発事故に関連する大規模調査によって明らかにされつつあり,嚢胞や腫瘤性病変が,1年程度の短期間で容易に変化することも報告されている.長期的変化についても今後更なる知見が集積されることを期待したい.