Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般ポスター
消化器 その他③

(S823)

Budd-Chiari syndromeを伴わない肝内静脈-静脈短絡の2例

Intrahepatic veno-venous shunts without Budd-Chiari syndrome

鈴木 さとみ1, 石田 秀明1, 渡部 多佳子3, 小松田 広美3, 八木澤 仁1, 宮内 孝治2, 大山 葉子4, 長沼 裕子5

Satomi SUZUKI1, Hideaki ISHIDA1, Takako WATANABE3, Hiromi KOMATUDA3, Hitoshi YAGISAWA1, Takaharu MIYAUCHI2, Youko OOYAMA4, Hiroko NAGANUMA5

1秋田赤十字病院消化器科, 2秋田赤十字病院放射線科, 3秋田赤十字病院検査科, 4秋田厚生医療センター臨床検査科, 5市立横手病院消化器科

1Gastrointestinal Medicine, Akita Red Cross Hospital, 2The Radiology Department, Akita Red Cross Hospital, 3Clinical Laboratory Department, Akita Red Cross Hospital, 4Clinical Laboratory Department, Akita Kousei Medical Center, 5Gastrointestinal Medicine, Yokote Municipal Hospital

キーワード :

【背景】
肝内静脈-静脈(veno-venous,以下,V-V)短絡は以前から知られている短絡路であるが,過去の報告の多くはBudd-Chiari syndromeおよび長期の肝静脈流出障害に伴う肝硬変を伴った例であり,この状態を伴わない肝内V-V短絡例の報告は極めてまれである.今回我々はそのような2例を経験したので報告する.
使用診断装置:東芝社製:Aplio XG, 500(中心周波数:3-4MHz).造影法の手順は,ソナゾイド®(GE Health Care社)を用い,通常の肝腫瘍の造影方法に準じた.
【症例】
症例1:60歳代男性:2年前に膵頭部の膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm,以下IPMN)に対する手術を施行.術後経過観察を目的に当院を受診した.自覚症状は無く血液生化学検査所見も明らかな異常は認めない.当院の腹部超音波検査では,a)肝全体は腫大しているが,実質パターンは正常で,肝表面も整.肝内に限局性病変無く,肝実質のshear wave elastography値も1.5前後と正常であった,b)残膵,脾に問題なく腹水も認めなかった.しかし,c)肝内門脈はほとんどがcavernous transformation of the portal vein(CTPV)で置換されていた,d)肝内に多数の微細V-V短絡がみられたが,その全てが肝右葉(右肝静脈-中肝静脈間と下右肝静脈-右肝静脈間)に限局していた.なお,肝内の3静脈(右,中,左)に偏移は無く,全て通常の高さで下大静脈に合流しており,これらの3静脈内の血流方向やFFT波形(3峰性)に問題はなく下大静脈は正常で流出障害はみられなかった.造影超音波上,肝の染まりは均一であった.CTでは肝内の微細な脈管の状態の把握は困難であった.手術操作に伴う一過性の門脈や下大静脈の閉塞によると考えた.現在外来で経過観察中.
症例2(60歳代女性):一過性の下腹部痛を主訴に受診した.腹部超音波検査では肝右葉に多数の微細V-V短絡がみられたが,その全てが肝右葉(右肝静脈-中肝静脈間と下右肝静脈-右肝静脈間)に限局していた.これらをBモードとカラードプラで観察すると,a)肝内の主3静脈(右,中,左)に偏移は無く,全て通常の高さで下大静脈に合流しており,b)これらの3静脈内の血流方向やFFT波形(3峰性)にも問題はなかった.CTでも同様の所見を呈した.原因不明の下大静脈の閉塞または欠損症と考えた.なお,造影超音波上,肝の染まりは均一であった.現在外来経過観察中.
【考察】
今回の肝内V-V短絡例が一般にみられるV-V短絡例と異なるのは,1)肝内の主3静脈(右,中,左)に偏移は無く,全て通常の高さで下大静脈に合流しており,これらの3静脈内の血流方向やFFT波形(3峰性)にも問題はなかったこと,2)肝硬変を疑わせる所見が無いこと,であった.原因に関しては,症例1で手術操作に伴う一過性の下大静脈の閉塞,症例2では過去のある時期に生じた下大静脈の閉塞,と考えられた.いずれの例でも,肝内V-V短絡が肝右葉(右肝静脈-中肝静脈間と下右肝静脈-右肝静脈間)に限局しており,この形成機序に関しても今後検討が必要である.