Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般ポスター
消化器 その他①

(S808)

腹部超音波検査が発見の契機となった爪楊枝誤飲による大腸穿孔の一例

Large intestine perforation by the toothpick diagnosed by ultrasound examination -A case report-

岡野 里賀1, 熊谷 佳奈江1, 渋谷 賢一1, 吉原 靖之1, 嶋津 藍2, 土谷 祐樹2, 松森 聖2, 佐々木 淳3, 西岡 暢子4

Rika OKANO1, Kanae KUMAGAI1, Kenichi SHIBUYA1, Yasuyuki YOSHIHARA1, Ai SHIMADU2, Yuuki TSUCHIYA2, Hijiri MATSUMORI2, Jyun SASAKI3, Nobuko NISHIOKA4

1越谷市立病院臨床検査科, 2越谷市立病院外科, 3越谷市立病院消化器科, 4越谷市立病院産婦人科

1Clinical Laboratory, Koshigaya Municipal Hospital, 2Surgery, Koshigaya Municipal Hospital, 3Gastroenterology, Koshigaya Municipal Hospital, 4Obstetrics and Gynecology, Koshigaya Municipal Hospital

キーワード :

【はじめに】
異物誤飲による消化管穿孔は比較的稀な疾患である.その中でも爪楊枝誤飲による消化管穿孔は非常に稀である.今回,腹痛を主訴とした患者に腹部超音波検査を行い異物を指摘しえた爪楊枝誤飲による大腸穿孔の一例を経験したので報告する.
【症例】
60歳代男性,既往歴高血圧,脳梗塞,嚥下障害なし.1週間前より右側腹部痛〜下腹部痛が出現し,改善しないため近医を受診した.腹部単純X線で便貯留,腹部膨満を認め,腸閉塞の疑いで当院消化器内科へ紹介受診となった.身体所見体温36.9℃,右側腹部に熱感あり,圧痛および反跳痛あり,筋性防御なし,腸管の蠕動運動正常範囲内であった.血液検査所見白血球17,100/μl, CRP 7.9mg/dlと炎症所見を認めた.腹部単純X線検査は多量の便や消化管ガスの貯留を認めたが,free airやneveuは認めなかった.腹部超音波検査では多量の消化管ガスにより全体的に描出不良であったが,上行結腸近位部に消化管ガスの消失と限局性壁肥厚を認めた.また,肥厚した腸管壁より右側の腹壁へ突出する低エコー領域と周囲に高エコー領域を認め,炎症を疑った.低エコー領域は上行結腸との連続性があり,内部は液状で流動性を認め,膿瘍形成が疑われた.その中心部には腸管内腔から腹壁の筋層へ貫通する長さ22mm直径2mmの線状の高輝度エコーを認め,結腸壁を貫通する異物が疑われた.腹部CT検査の初回判読では明瞭な病的所見は指摘されなかった.超音波検査の所見を踏まえた再読影では,上行結腸右側から腹壁に連続する長さ55mmの線状の低吸収域を認め,腸管壁の肥厚と腹壁の腫脹を確認できた.以上より,長さ55mmの異物による穿孔を疑って緊急の開腹手術を施行した.手術所見は上行結腸から腹壁に爪楊枝が貫通していることが目視できた.爪楊枝を摘出後,穿孔部から腸管内容物の流出はなく,穿孔部の単純閉鎖,大網被覆,腹壁の膿瘍腔の洗浄を施行した.術後経過良好にて18日目に退院となった.
【考察】
本症例では腸管壁から突出する低エコー領域を認め憩室炎を疑ったが,高周波プローベに交換し描出する事により低エコー領域は液状で,内部に線状高輝度エコーを確認できた.異物の長径は22mmであり,腸管壁から突出した部位のみの描出で腸管内の残存部位は便によって描出できなかったが,CT検査では爪楊枝の全体像を描出することができた.膿瘍はCT検査では指摘ができなかったが,超音波検査では詳細な所見を観察する事ができたと言える.異物誤飲を起こしやすい要因として,軟口蓋を覆う義歯による感覚消失,過度に温冷された飲物やアルコール摂取による口蓋表面の感覚鈍麻,早急な摂食による不十分な咀嚼,乳幼児,高齢者などが挙げられる.本症例においても義歯による感覚消失,早急な摂食による不十分な咀嚼などが要因となった可能性が高いと考えられた.爪楊枝誤飲における術前の画像検査での陽性率は超音波検査で29%,CT検査で15%との報告があり(Liら),必ずしも高くない.爪楊枝は超音波検査では高輝度の線状エコー,CT検査では線状のlow〜high density像として認められ,爪楊枝が水分を吸収することでCT値が上昇するという報告もある.
【結語】
爪楊枝誤飲による大腸穿孔の1例を経験した.本症例は腹部超音波検査により,異物および穿孔部を指摘でき,超音波の有用性を再認識した症例であった.