Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般ポスター
循環器 循環器⑧

(S798)

右心機能の改善を観察できた急性肺血栓塞栓症の1例

A case of acute pulmonary thromboembolism with improvement of right heart function

中村 俊宏, 三好 達也, 住本 恵子, 二の丸 平, 永松 裕一, 平沼 永敏, 佐々木 義浩, 觀田 学, 藤井 隆

Toshihiro NAKAMURA, Tatsuya MIYOSHI, Keiko SUMIMOTO, Taira NINOMARU, Yuuichi NAGAMATSU, Noritoshi HIRANUMA, Yoshihiro SASAKI, Gaku KANDA, Takashi FUJII

赤穂市民病院循環器科

Cardiology, Ako City Hospital

キーワード :

症例は70歳台女性.平成27年5月頃から倦怠感を自覚,10月頃から労作時呼吸困難も認めていた.同年11月,起床後,立位になった際に左下肢鈍重感を認めると共に呼吸困難を呈し,徐々に増強したため,救急要請した.救急隊現着時,室内気でSpO2 78%のため,酸素投与開始し当院救急搬送となった.当院来院時,安静時呼吸困難が継続していたが,SpO2 95%(O2 6Lリザーバーマスク)であった.両側の下腿浮腫は認めなかったが,来院直後の経胸壁心エコー図検査で左室扁平化ならびに肺高血圧を認めたため,急性肺血栓塞栓症が疑われた.造影CT検査を施行したところ,両側肺動脈末梢に血栓を認めたため,急性肺血栓塞栓症と診断し,緊急入院の上,抗凝固療法を開始した.入院後の経胸壁心エコー図検査再検では,収縮期優位の左室扁平化,右室の著明な拡大ならびに右室自由壁の壁運動低下を認めていた.また,三尖弁輪拡大に伴い,三尖弁閉鎖時に弁尖の一部が離開しており,高度三尖弁逆流も認めていた.右房-右室圧較差は75mmHgと高値であり,右室流出路波形は二峰性となっていた.治療開始後,徐々に呼吸困難症状は軽快し,労作時も酸素投与不要な状態まで改善した.抗凝固療法開始2週間後に経胸壁心エコー図検査を行ったところ,左室扁平化の改善,右室の縮小および右室壁運動の軽度改善,左室径拡大を認めた.右房-右室圧較差は45mmHgと軽減しており,右心負荷所見の改善も見られた.三尖弁弁尖の離開は改善し,三尖弁逆流は中等度から高度となっていた.経胸壁心エコー図検査と同日に施行した右心カテーテル検査では,平均肺動脈圧は25mmHgであった.症状ならびに心エコー図所見の改善を認めるものの,肺高血圧症を依然認めていたため,経過をフォロー中である.
本症例は,抗凝固療法開始後の右心機能改善を観察できた急性肺血栓塞栓症の一例である.急性肺血栓塞栓症の心エコー図所見として,右室拡大,および右室心尖部の壁運動は保たれる一方で右室自由壁運動が障害される,いわゆるMcConnell徴候が有名である.本症例では,入院時の経胸壁心エコー図検査でMcConnell徴候を認めず,著明な右心系拡大と右心負荷所見を認めた事から,慢性肺血栓塞栓症に新たな肺血栓塞栓症を発症し,症状が増悪したものと考えられた.そのため,自覚症状ならびに肺高血圧症の改善が早期には得られないことが予想されたが,2週間の抗凝固療法で症状ならびに肺高血圧症の改善を認めた.急性肺血栓塞栓症と慢性肺血栓塞栓症急性増悪を鑑別することは,急性期の心エコー図検査だけでは困難であるが,両疾患における慢性期の治療方針が異なるため,その鑑別は重要である.本症例では,急性期の心エコー図所見から予想された経過と実際の臨床経過が異なるため,疾患の鑑別に苦慮した.実臨床においてこの様な症例に遭遇し,診断に難渋する可能性があるため文献的考察を交えて報告する.