Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
消化器 診断:一般②

(S675)

超音波検査を用いた癒着マッピングの検討

Mapping of Abdominal Adhesions by Ultrasonography

佐藤 寛之1, 中原 慶1, 長野 陽子1, 水谷 行伸1, 手塚 尚美1, 久保田 久子1, 平田 知己1, 吉田 寛2

Hiroyuki SATO1, Kei NAKAHARA1, Youko NAGANO1, Yukinobu MIZUTANI1, Naomi TEDUKA1, Hisako KUBOTA1, Tomomi HIRATA1, Hiroshi YOSHIDA2

1日本医科大学多摩永山病院中央検査室, 2日本医科大学多摩永山病院外科

1Department of Central Clinical Laboratory, Nippon Medical School Tama Nagayama Hospital, 2Department of General Surgery, Nippon Medical School Tama Nagayama Hospital

キーワード :

【目的】
近年,腹腔鏡下手術の発展と普及はめざましく,標準化された術式として幅広く施行されている.しかし,腹部手術既往例では腹腔内癒着によりトロッカーの挿入や術野の確保に難渋するケースが少なくない.術前に腹部超音波にて癒着の有無を検討した報告は散見されるが,腹腔内臓器の移動距離にて癒着の有無が評価されている.今回我々は,腹部手術既往患者に対して術前に超音波検査を施行し,腹部各部位での腹腔内臓器の移動距離と移動距離比(最大移動距離との比)を測定し,術中癒着所見と比較検討したので報告する.
【対象と方法】
2014年1月から2015年10月において術前に腹部超音波検査を施行した116症例(1044部位)のうち,腹部手術既往31例(279部位)を対象とした.内訳は男性18人,女性13人,年齢は45〜83歳(平均年齢67.7歳)であった.超音波診断装置はSSD-790A(東芝メディカル),プローブは8.0MHzリニアプローブ(PLT805AT)を用いた.方法は,腹部全体を上・中・下部に分類しさらに正中とそれを基準に左右対称に2ヵ所,合計9ヵ所を描出部位とした.仰臥位の患者に対し,超音波にて腹膜を認識後に深呼吸をさせ,腹腔内臓器の呼吸性移動による矢状方向の移動距離を測定した.また9ヵ所の描出部位のうち最大移動距離となった部位の移動距離を1として他の部位の比(移動距離比)を算出した.術中癒着所見をGrade 0(癒着なし),Grade 1(軽度癒着:腸管癒着なし),Grade 2(高度癒着:腸管癒着あり)の3段階に分類し評価した.
【結果】
①術中癒着所見:Grade 0(180部位),Grade 1(53部位),Grade 2(46部位)であった.②移動距離と術中癒着Gradeの比較:平均移動距離(mean±SD)(mm)はGroup 0(45.3±12.3),Group 1(22.4±5.0),Group 2(11.6±4.1)で,各群間に有意差(P<0.00001)を認めた.移動距離が10mm以下(19部位)全てGrade 2,11〜20mm(45部位)ではGrade 0(1部位:2.2%),Grade 1(18部位:40.0%),Grade 2(26部位:57.7%),21〜30mm(52部位)ではGrade 0(21部位:40.4%),Grade 1(29部位:55.8%),Grade 2(2部位:3.8%),31mm以上(163部位)ではGrade 0(162部位:99.4%),Grade 1(1部位:0.6%)であった.③移動距離比と術中癒着Gradeの比較:平均移動距離比(mean±SD)はGrade 0(0.78±0.18),Grade 1(0.40±0.10),Grade 2(0.21±0.08)で,各群間に有意差(P<0.00001)を認めた.移動距離比が,0.20以下(31部位)では全てがGrade 2,0.21〜0.40(40部位)ではGrade1(25部位:62.5%),Grade2(15部位:37.5%),0.41以上(208部位)ではGrade0(184部位:88.5%),Grade1(23部位:11.1%),Grade2(1部位:0.5%)であった.
【考察】
従来の報告では移動距離10mm以下を癒着ありと診断する報告が多い.本研究では移動距離10mm以下では全例Grade 2であったが,Grade 2の半数以上は11mm以上であった.一方,移動距離比では,0.20以下の場合は全例Grade2で,0.21〜0.40ではGrade1またはGrade2,0.40以下ではGrade0は認められなかった.呼吸性移動距離には個人差があり,従来に指標とされていた移動距離よりも移動距離比が術前超音波による癒着診断に有用であった.
【結論】
超音波検査を用いて癒着マッピングを行い,移動距離比から有用な癒着判定基準を得ることができた.定量的なデータから基準値を設定し癒着マッピングを術前に行い,より正確な癒着評価を行うことで腹腔鏡下手術を安全に施行することができると考えられる.