英文誌(2004-)
一般口演
消化器 肝線維化④
(S657)
薬剤性肝障害後の肝硬度の改善をFibroScan®にて経時的に観察し得た一例
Time-dependent improvement of liver stiffness measured by FibroScan after drug-induced liver injury: A case report
丸井 彩子, 米門 秀行, 大原 芳章, 坂本 梓, 齋藤 澄夫, 西島 規浩, 那須 章洋, 喜多 竜一, 木村 達, 大崎 往夫
Saiko MARUI, Hideyuki KOMEKADO, Yoshiaki OHARA, Azusa SAKAMOTO, Sumio SAITO, Norihiro NISHIJIMA, Akihiro NASU, Ryuichi KITA, Toru KIMURA, Yukio OSAKI
大阪赤十字病院消化器内科
Department of Gastroenterology and Hepatology, Osaka Red Cross Hospital
キーワード :
【はじめに】
肝線維化のgold standardは肝生検であるが侵襲的である.FibroScan®は剪断弾性波を用いて肝硬度を計測することにより,非侵襲的に肝線維化を診断する方法としてひろく用いられている.一方,炎症や胆汁鬱滞などの影響により,線維化のない急性肝炎でも肝硬度の上昇がみられることが知られている.今回,薬剤性肝障害後の肝硬度の変化をFibroScan®にて長期観察し得た一例を経験したため,当院における急性肝障害症例のFibroScan®のデータと併せて報告する.
【症例報告】
症例は58歳男性であり,めまいを主訴に当院救急外来を受診し肝酵素優位の肝胆道系酵素上昇を指摘され緊急入院した.多数の内服薬があり,肝障害の原因となった薬剤は同定できなかったが,ウイルス性肝炎や自己免疫性肝炎等の他の原因を認めず薬剤性肝障害と診断した.可能な限りの薬剤を中止し肝障害は改善した.第16病日に肝生検を行ったところ,新犬山分類F3/A3相当であり,特異的な組織像は得られなかった.第12病日に41.6 kPaと高値であった肝弾性値は,2か月後には23.9 kPa,4か月後に16.9 kPa,1年後に14.2kPa,1年半後に12.1kPaと徐々に低下した.肝弾性値の改善とともに,プロトロンビン時間,アルブミンといった肝合成能も改善を認めた.
【考察】
FibroScan®は剪断弾性波が肝を伝搬する速度を計測し肝硬度診断を行う装置であり,約7kPa以上を有位な線維化,12.5-15 kPa以上を肝硬変と解釈する.しかし,直接線維化を診断する方法ではなく,組織の弾性のみならず粘性も反映するとされ,炎症や胆汁鬱滞などにより影響を受ける可能性がある.ウイルス性急性肝炎の際にALT活性やT-Bil濃度と相関して肝硬度値が上昇することが知られているが,薬剤性肝障害における肝弾性値に関する報告は少ない.本症例では,ALT活性やT-Bil濃度が正常化した後も,肝硬度は比較的高値で経過した.プロトロンビン時間等の肝合成能低下は薬剤性肝障害軽快後も数か月に渡って続いたが,肝硬度値の低下とともに合成能は正常化した.薬剤性肝障害後における,肝再生の過程が肝硬度値を通じて観察できたものと考える.