Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
消化器 肝:症例②

(S638)

肝ポルフィリア症(chronic hepatic porphyria:CHP)の1例

US findings of a case of chronic hepatic porphyria

伊藤 周一1, 船岡 正人1, 長沼 裕子1, 石田 秀明2, 吉田 誠3

Shuichi ITO1, Masato HUNAOKA1, Yuko NAGANUMA1, Hideaki ISHIDA2, Makoto YOSHIDA3

1市立横手病院消化器内科, 2秋田赤十字病院超音波センター, 3秋田大学大学院医学系研究科器官病態学講座

1Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, 2Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 3Department of Cellular and Organ Pathology, Akita University Graduate School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
肝ポルフィリア症と思われた1例を経験したので報告する.
【症例】
60歳代男性.HBVキャリアーで近医通院中,USで多発肝腫瘤を指摘され当院紹介受診した.家族歴,既往歴には特記事項なし.焼酎700ml/日のアルコール歴あり.肝機能,腫瘍マーカーには異常を認めなかった.US所見では肝全体に円形高エコー腫瘤が多発していた.カラードプラでは脈管偏位認めず,動脈,門脈,静脈血流にも異常認めなかった.造影USで肝全体が均一に染影され,腫瘍血管は認めなかった.CT検査でも肝に多発腫瘤を認め,同様の所見であった.肝ポルフィリアを疑い追加検査した尿中ウロポルフィリン,コプロポルフィリン定量が高値を示した.肝腫瘤生検では軽度の脂肪沈着の所見で腫瘍細胞は認めなかった.3ヶ月の断酒後の経過観察のUSで多発肝腫瘤は消失していた.使用装置:日立アロカ社製Preirus.造影剤:第一三共ソナゾイド®
【考察】
肝ポルフィリン症で円形高エコー結節が多発する事は比較的以前から報告されてきたが未だに広く認知されている所見とは言い難い.現在でも研究会や学会で,“vanishing mass(またはtumor)”,“(円形)不規則脂肪肝”,等の表現で報告されていることが多いのも事実である.また,所見が早く変化するためしっかりした把握がなされずに放置されている一般臨床例も多いと推定される.本症の最終診断は,本例のように肝生検でなされるが,超音波検査のみで診断がほぼ可能な疾患である.超音波所見上,a)数mm-1cm程度の多発円形高エコー結節が,b)主に肝右葉辺縁に出現し,c)所見(高エコー結節)が短期間で消失し,d)近接した肝内脈管系に偏位を認めない,e)造影超音波上結節部は周囲肝と常に同様な染まりを示す,という特徴があり,d)e)は通常の不規則脂肪肝にもみられる所見であるが,a)-c)は通常の不規則脂肪肝ではまれな所見である.このことは逆に,a)-c)を示す不規則脂肪肝をみたら肝ポルフィリン症を疑う事が必要である.肝ポルフィリン症はアルコール多飲者にみられるため,アルコール性肝障害-肝細胞癌という線は常に念頭に入れる必要があるが,同時に,アルコール性肝障害-肝ポルフィリン症という組み合わせも常に念頭に入れておかなければならないことを再認識させられた症例であった.なお,肝ポルフィリン症の肝所見は変化が早いため経過観察は数週間から1月単位とすべきと思われた.