Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
消化器 その他:症例

(S624)

体外式超音波が診断に有用であった十二指腸巨大Brunner腺過形成の1例

A case report: the duodenal huge Brunner’s gland hyperplasia that could be diagnosed by transabdominal ultrasonography

中藤 流以1, 畠 二郎2, 眞部 紀明2, 飯田 あい2, 小山 展子4, 河合 良介2, 今村 祐志2, 塩谷 昭子1, 春間 賢3

Rui NAKATO1, Jiro HATA2, Noriaki MANABE2, Ai IIDA2, Nobuko KOYAMA4, Ryosuke KAWAI2, Hiroshi IMAMURA2, Akiko SHIOTANI1, Ken HARUMA3

1川崎医科大学消化管内科学, 2川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波), 3川崎医科大学総合内科学2, 4川崎医科大学肝胆膵内科学

1Gastroenterology, Kawasaki Medical School, 2Endoscopy and Ultrasonography, Kawasaki Medical School, 3General Internal Medicine2, Kawasaki Medical School, 4Hepatology and Pancreatology, Kawasaki Medical School

キーワード :

【緒言】
Brunner腺過形成は十二指腸腫瘍性病変で,異型のないBrunner腺が増殖し腫瘤を形成するもので,大きさが40mmを超えるものは10%未満と稀である.また医中誌で「腹部超音波」「Brunner腺過形成」で検索すると会議録が1例あるのみで,文献化された報告はない.体外式超音波検査が診断に有用であったBrunner腺過形成の一例を報告する.
【症例】
50歳代,女性.3カ月前から増悪する食欲不振と心窩部痛を主訴に近医受診.貧血を認め,出血源検索目的に行った上部消化管内視鏡検査(EGD)で胃内に大きさ約45mm程度の腫瘤を認め精査目的に当院に紹介入院となった.
【血液生化学所見】
Hb 9.1 g/dl,MCV 89.1 fl,MCH 30.0 pgと正球性正色素性貧血を認めた.また,BUN 25 mg/dl,CRE 0.58 mg/dlでBUN/CRE比は43.1と上昇していた.
【EGD所見】
十二指腸球部に45*40mmの有茎性腫瘤性病変を認めた.腫瘤表面の異型性は目立たないものの,oozing bleedingを伴ったびらんを認めた.十二指腸内腔は腫瘤でほぼ閉塞し,スコープは通過したが嵌頓の可能性も考え,十二指腸から胃への移動を試みたが腫瘍は幽門を超えなかった.粘膜下腫瘍を疑ったが確定診断には至らず,生検でも異型細胞を認めなかった.
【腹部骨盤単純造影CT所見】
十二指腸球部に45mm程度の腫瘤性病変を認め,辺縁は遷延性に造影された.内部は低吸収域を認め,嚢胞変性や壊死を疑った.周囲臓器への浸潤や転移を示唆する所見は認めなかった.粘膜下腫瘍が疑われたが癌は否定できなかった.
【腹部超音波検査】
十二指腸球部後壁の第2層から第3層に存在する約5.5cmの粘膜下腫瘍を認めた.固有筋層は正常で,内部は大半が多房性嚢胞からなり,嚢胞間に充実成分を認めた.血流は比較的豊富であるが血管径や形状に不整は認めず,PIは0.92で上昇は認めなかった.以上より十二指腸Brunner腺過形成を疑った.
【臨床経過】
十二指腸内での空間確保が困難であったこと,悪性の可能性が否定できないことから,開腹で粘膜下層剥離術を行った.術材の組織診断はBrunner腺過形成で超音波診断と矛盾しない所見であった.術後1週間で退院した.
【考察】
Brunner腺過形成は粘膜下腫瘍の形態をとるため,生検での診断は必ずしも容易ではない.治療方針の基準はないが,本症例の様に大きさが21mmを超えるものや症状を伴っている場合は治療適応と考えられている.治療法は一定の見解はないが,過去の報告では内視鏡治療の条件として,1)悪性疾患との鑑別が可能な症例,また悪性であっても内視鏡治療により根治が期待されること.2)内視鏡操作が可能な空間が確保できること.3)有茎性の病変で止血操作が可能なもの.4)亜有茎性や無形性であっても内視鏡的粘膜切除可能な小病変.が示されている.本症例は十二指腸内の空間確保が困難で,悪性の可能性が否定できず,外科的治療を行った.十二指腸粘膜下腫瘍を呈する疾患には異所性胃粘膜,GIST,脂肪腫,迷入膵などが挙げられ,鑑別には超音波内視鏡(EUS)が有用とされる.Brunner腺過形成はEUSで消化管壁第3層に連続する均一な高エコーを呈し,腫瘤内部にBrunner腺由来の導管拡張を反映した小嚢胞を認めると報告されている.本症例では体外式超音波で同様の所見であった.EUSは有用な検査法であるが,大きな病変では病変全体の描出が困難であるなどの欠点もある.一方で体外式腹部超音波検査は内視鏡侵襲なく,比較的大きな病変も描出可能で,特に本症例の様に前庭部付近は良好な観察が期待できるため,上部消化管の精査に積極的に使用すべきと考える.