Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
消化器 その他:症例

(S623)

高齢者に対する往診エコー:胸水検出の意義

Detection of pleural effusion by portable US; its impact on management of elder patients

石田 秀明1, 長沼 裕子2, 長井 裕3, 石田 明子4, 鬼平 聡5

Hideaki ISHIDA1, Hiroko NAGANUMA2, Hiroshi NAGAI3, Akiko ISHIDA4, Satoshi KIBIRA5

1秋田赤十字病院超音波センター, 2市立横手病院消化器科, 3NGI研究所, 4石田内科医院石田内科医院, 5きびら内科クリニック

1Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 2Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, 3New Generation Imaging Laboratory, 4Ishida Clinic, Ishida Clinic, 5Kibira Medical Clinic

キーワード :

【背景1】
我々はこれまで本大会において携帯超音波の有用性を報告してきた.当初観察に苦慮した浅部の観察もdual probe装置の市販により大幅に改善された.しかし使用されている携帯超音波の多くはまだSector Probe1本のみの装置で,これの能力を十分に活用する事が実際的である.
【背景2】
急激な高齢化社会へ移行している我が国で,老健施設入居高齢者に対し往診エコーを用いる機会はこれからも増加すると思われる.その際の簡単な着眼点を確認し合うことは重要である.
【はじめに】
演者(H.I.)が往診時Vscan(GE Healthcare)で腹部観察中胸水(+)例が散見され,それがその後の診療方針決定に有用であった経験がある.この胸水検出が本当に高齢者診療に有用か再検討した.
【対象と方法】
1)往診エコーを施行した胸腹部に漠然とした症状を有する80歳以上の18例(男性5例女性13例:年齢:81-101歳,平均:91)を胸水の有無で2群に分け“その後”を比較した.2)胸水(+)7例に関し,肋弓下と肋間からの描出能を比較した.また,10名の一般医による静止画と動画の画像比較をしてもらった.なお,胸水(+)7例は(男性1例女性6例:年齢:88-101歳,平均:93歳)胸水(-)11例は(男性4例女性7例:年齢:82-95歳,平均:89歳)である.
【結果】
1)胸水(+)のその後の経過は,全員転院し,肺炎2例,肺癌1例,心不全1例,急性胆嚢炎1例(要処置例5/7),その他2例,で2例が1月以内に死亡した.胸水(-)のその後の経過は,1例が肋骨骨折で転院したが,他の10例は自然軽快した.2)右胸水の描出に関しては肋弓下からの描出は3/7(42.8%)で肋間に比して描出能が劣っていた.肋弓下のみからの描出は0/7(0%)で全例で肋間から描出が可能であった.なお,1静止画と動画の比較では,静止画の方が分かりやすい0/10(0%),動画の方が分かりやすい10/10(100%),静止画で“胸水”と診断可能2/10(20%),動画がないと“胸水”と診断不能8/10(80%),であった.
【考察】
老健施設に入居している高齢者は,a)移動困難例,b)多病を有している例,が多く,かつ,c)意思疎通がとりにくく,d)全身状態が急速に悪化する,ことも多い.このように極めて制限された環境の中で最大限の患者情報を収得する最良のツールが携帯超音波である.特に,患者が現在急を要する状態にある場合,携帯超音波装置で,その危険性を能率的察知する簡単な(アラーム)所見が有ればいい.この点に関して,経験的に有用と感じた胸水に注目し今回検討したところ,アラーム所見として有用と思われる結果であった.胸水は,種々の原因で生じるが,その中には,肺癌や肺炎,等の呼吸器疾患,心不全などの心疾患,も含まれており,急速に増量した胸水が症状惹起の主因,と思われる.一方,胸水拾い上げに関しては,肋弓下からの描出は3/7(42.8%)で肋間に比して描出能が劣っており,携帯超音波といえども最低限の走査トレーニングが必要である.記録方法に関しても,動画では識別容易な,胸水に,肝の鏡像,肺内ガスによるring-down artifact,等,が加わり,静止画では静止のタイミングにより不鮮明になることを意味しており,携帯超音波の活用においても動画診断,動画記録,が不可欠と思われる.