Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
循環器 他臓器疾患と心機能

(S607)

心エコー法で観察した分娩前後での心形態と血行動態の変化:帝王切開と経膣分娩の比較

Morphological and Hemodynamic Changes of the Peripartum Maternal Heart: A Comparative Study of Cesarean Section and Vaginal Delivery

馬詰 武1, 山田 聡2, 山田 崇弘1, 村井 大輔2, 林 大知2, 岩野 弘幸2, 西野 久雄3, 横山 しのぶ3, 筒井 裕之2, 水上 尚典1

Takeshi UMAZUME1, Satoshi YAMADA2, Takahiro YAMADA1, Daisuke MURAI2, Taichi HAYASHI2, Hiroyuki IWANO2, Hisao NISHINO3, Shinobu YOKOYAMA3, Hiroyuki TSUTSUI2, Hisanori MINAKAMI1

1北海道大学大学院産科生殖医学, 2北海道大学大学院循環病態内科学, 3北海道大学病院検査・輸血部

1Department of Obstetrics, Hokkaido University Graduate School of Medicine, 2Department of Cardiovascular Medicine, Hokkaido University Graduate School of Medicine, 3Division of Laboratory and Transfusion Medicine, Hokkaido University Hospital

キーワード :

【目的】
妊娠中に体重と循環血液量は増加し,分娩後に体重減少を認めるが,妊娠・分娩が心形態と機能に与える影響については詳しくはわかっていない.そこで,心エコー図による心形態と血行動態,および液性因子の分娩前後での変化を観察し,分娩に起因する循環動態の変化を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は,内科疾患を合併していない正常血圧妊婦53名(帝王切開群:CS群24名,経膣分娩群:VD群29名)である.妊娠後期(36±1週)と産後3±1日に,心エコー検査を施行し,N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)と血清アルドステロン濃度(PAC)を測定した.
【結果】
分娩前と比べ分娩後に,左室拡張末期径(45.6±3.3 vs 46.6±3.4 mm, p=0.160)と心筋重量係数(68.0±12.4 vs 72.6±14.0 g/m2,p=0.082)は変化しなかったが,左房は拡大した(容積係数:25.0±5.9 vs 28.6±6.2 ml/m2,p=0.003).心拍数は産後に減少したが(83±13 vs 76±10 bpm, p=0.004),左室流出血流の時間速度積分値は増加し(19.7±2.8 vs 22.8±2.5 cm, p<0.001),結果として心拍出量は変化しなかった.左室駆出率(62±4.7%vs 63±4.7%,p=0.405)は変化しなかったが,左室流入血流の拡張早期波高(E)と心房収縮期波高の比(1.3±0.4 vs 1.6±0.4,p<0.001)およびEと僧帽弁輪拡張早期運動速度の比(5.2±1.8 vs 6.3±1.3,p<0.001),さらにNT-proBNP(35±35 vs 152±125 pg/mL, p<0.001)は産後に上昇し,産後の容量負荷が示唆された.分娩様式間の比較では,後期の各指標に2群間で差を認めなかったが,CS群ではVD群に比し,産後の左房サイズが大きく(容積係数:30.6±6.9 vs 26.9±5.0 mL/m2,p=0.035),右室流出路径も増大していた(29.7±5.5 vs 26.1±3.2 mm, p=0.039).分娩後体重減少量はCS群で小さく(3.1±1.5 vs 4.5±1.4 kg, p<0.001),産後のNT-proBNPはCS群で高値を示し(228±142 vs 94±68 pg/mL, p<0.001),PACはCS群で抑制されていた(100±62 vs 184±160 pg/mL, p=0.013).
【考察】
妊娠・分娩に伴う心形態と機能の変化として,容量負荷による妊娠後期の左室の肥大傾向と拡張機能の低下のみが強調されているが,本研究の結果から,心形態と血行動態の変化は妊娠後期よりもむしろ分娩直後にさらに顕著になると考えられた.分娩後は体重が減少するものの,子宮体積が分娩前より縮小し,胎盤や肥大した子宮筋層を灌流していた血液の体循環への移行により体循環血液量が増加することなどが影響していると考えられる.VD群よりCS群で分娩直後のNT-proBNPが高いことは既に知られているが,本研究の結果から,CS群でより顕著な容量負荷が生じていることが示唆された.CS群では,周術期補液や術後refillingの影響で,VD群より大きな容量負荷がかかるものと考えられる.
【結論】
容量負荷は妊娠後期よりも産後に,経膣分娩後よりも帝王切開後に大きいと考えられる.特に循環動態のリスクを有する場合には妊娠後期のみならず,分娩後にも厳重な容量管理を行うべきである.