Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
循環器 心機能評価②

(S600)

左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)症例の心エコーの特徴

Characteristic of Echocardiographic Findings in Patients With Heart Failure

井坂 葵, 坂田 好美, 上杉 陽一郎, 松下 健一, 吉野 秀朗

Aoi ISAKA, Konomi SAKATA, Youichiro UESUGI, Kenichi MATSUSHITA, Hideaki YOSHINO

杏林大学医学部循環器内科

Division of Cardiology, Kyorin University School of Medicine

キーワード :

【目的】
急性心不全症例は,入院時の心エコーにて左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(HFrEF)症例とLVEFが保持された心不全(HFpEF)症例に分類される.今回,当院に急性心不全で入院した症例のうちHFpEF症例の入院時の心エコーの特徴について検討した.
【対象と方法】
対象は,当院に急性心不全で入院した255症例である.入院時の心エコーにて,Modified Simptom’s法にてLVEFを計測し,LVEF<50%の148例をHFrEF群,LVEF≥50%の107症例をHFpEF群とした.経胸壁心エコーより,左室拡張末期径(LVDd),左心房径(LAD),ドプラ法による三尖弁逆流の最大血流速度(TRPG),心室中隔側と側壁側の平均僧帽弁拡張早期血流速度/僧帽弁輪運動速度(E/e’)を測定した.また,臨床的特徴につき検討した.
【結果】
HFpEF群ではHFrEF群と比較して心房細動(55%vs. 37%;p=0.0039),大動脈弁狭窄(18.7%vs. 5.4%;p=0.0008),貧血(68%vs. 52%;p=0.0124)の合併が高率であった.心エコー所見では,HFpEF群ではHFrEF群と比較してLVDdは有意に低値(45.2±7.0 vs. 55.1±9.mm; p<0.0001),LVEF(60.8±8.2 vs. 35.1±9.3%;p<0.0001)は有意に高値であり,LAD(40.0±0.7 vs. 43.2±0.7mm; p=0.0068)は有意に増大していた.E/e’(18.4±7.6 vs. 16.8±7.5;n.s.)は両群間に有意差は認めなかったが,TRPG(37.3±15.1 vs. 32.6±12.8mmHg;p=0.0107)は有意に高値であった.院内死亡率はHFrEF群9.5%,HFpEF群8.3%で両群間に有意差は認めなかった.3年間の長期死亡率もHFrEF群26.5%,HFpEF群21.5%で両群間に有意差は認めなかった.
【考察】
HFpEF群はLVEFの低下がないが,予後はHFrEF群と同等であった.心エコーによるHFpEFの特徴は,高率な心房細動と大動脈弁狭窄の合併,LADの拡大とTRPGの上昇であり,これらの病態がHFrEF群と同等の予後悪化の原因と考えられた.
【結論】
HFpEF群の特徴は,左室収縮能は保たれているが,左心房が拡大し心房細動合併率が高く左心房負荷が増大し,また,TRPGも高値であり肺高血圧,右心負荷がより増大した症例であった.HFpEF症例の心機能評価には,心エコーによる左心房,肺高血圧の評価を行うことが重要である.