伊藤 浩司¹, 福光 梓², 秋光 起久子², 村田 眞知子², 奥田 知世², 黒川 佳代², 小川 明希², 毛利 正博³, 山本 英雄³

Koji ITO¹, Azusa FUKUMITSU², Kikuko AKIMITSU², Machiko MURATA², Tomoyo OKUDA², Kayo KUROKAWA², Aki OGAWA², Masahiro MOHRI³, Hideo YAMAMOTO³

¹独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院医療情報部, ²独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院生理検査室, ³独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院循環器科

¹Medical Informatics, JCHO Kyushu Hospital, ²Echocardiography Laboratory, JCHO Kyushu Hospital, ³Cardiovascular Medicine, JCHO Kyushu Hospital

キーワード :

【目的・対象】
心エコー検査において左室駆出率（EF）は左心機能パラメーターとして重要な役割を果たしているが，必ずしも心機能を鋭敏に反映しているわけではない．有用な心不全マーカーとして血中BNP値が測定されるが，EF正常症例においても加齢に伴いBNP値は上昇することが知られている．つまり，EFでは捉えられない心負荷（潜在的心機能低下）をBNP値が反映していると考えられる．近年，心エコー検査において，組織ドップラーイメージング（TDI）を用いた解析が行われているが，その指標の一つに，Global function index（GFI）= E/E’/S’（E：僧帽弁早期流入波形速度，E’：僧帽弁輪部拡張早期TDI速度，S’：僧帽弁輪部収縮期TDI速度）がある．これまで，GFIは肥大型心筋症と高血圧性心肥大との鑑別における有用性が報告されているが，BNPで認められるような加齢性変化を反映するパラメーターか否かは不明である．そこで，本研究では，心疾患を有さないEFが保たれた症例を対象に，各年齢層におけるGFIを求め，BNP値のような加齢に伴う変化を認めるか否かを検討した．
【方法】
2015年4月から11月の間に当院生理検査室において心エコー検査を行った患者のうち，EFが正常範囲（＞55％）の症例で，以下の除外項目を認めない症例（全580例）を対象に，①30歳以上40歳未満，②40歳以上50歳未満，③50歳以上60歳未満，④60歳以上70歳未満，⑤70歳以上80歳未満，⑥80歳以上におけるGFIを含む各パラメーターを検討した．除外症例：左室壁運動異常，中等度以上の弁膜症，開心術後，冠動脈疾患，慢性心房細動，肺高血圧，先天性心疾患，抗がん剤投与，描出不良，透析中の症例．
【結果】
GFIと各年齢群は，有意な正の相関を示し（r=0.532，p＜0.01），年齢層間での有意差も認めた．一方，LVEFと年齢は全く相関を示さなかった（下図）．
【考察・結論】
器質的心疾患を有さずEFが正常に保たれた症例において，GFIは年齢（加齢）と有意な相関を認めたが，EFは年齢（加齢）との間に全く相関を認めなかった．この年齢（加齢）とGFIの相関は，過去の報告にある血中BNPとの年齢との相関と同程度であり，BNPで認められるような加齢性変化を簡便に捉えられる心エコー指標と考えられた．