Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
循環器 症例報告③

(S594)

20年の経過で拡大したバルサルバ洞動脈瘤の一例

A case of sinus of Valsalva aneurysm enlarged by 20 years

浅川 雅子1, 大竹 睦美2, 村岡 洋典1, 山下 皓正1, 杉下 和郎1, 安喰 恒輔1, 鈴木 登志彦3, 村田 将光3, 鎌田 聡3

Masako ASAKAWA1, Mutsumi OHTAKE2, Hironori MURAOKA1, Terumasa YAMASHITA1, Kazuro SUGISHITA1, Kohsuke AJIKI1, Toshihiko SUZUKI3, Masamitsu MURATA3, Satoshi KAMATA3

1JR東京総合病院循環器内科, 2JR東京総合病院臨床検査科, 3JR東京総合病院心臓血管外科

1Department of Cardiology, JR Tokyo General Hospital, 2Clinical Laboratory, JR Tokyo General Hospital, 3Department of Cardiovascular Surgery, JR Tokyo General Hospital

キーワード :

【症例】
30歳代男性
【既往歴】
心室中隔欠損症(VSD),家族歴:とくになし,現病歴:VSD(Kirklin I型)として定期的にフォローされてきた.16歳時右冠尖(RCC)の逸脱変形が疑われ,大動脈造影施行.軽度RCC逸脱と軽度ARを認めたが,大動脈弁接合不全は認めず,VSDシャントは微量で,手術適応なしと診断された.2015年安静時胸部苦悶感を主訴に当院初診.
【身体所見】
血圧136/88mmHg,脈拍84/分,聴診上心雑音聴取せず.
【血液検査】
Hb16.4mg/dl,BNP<5.8pg/ml,CRP0.03mg/dl以下.
【心電図】
洞調律,心拍数69/分,胸部レントゲン:CTR49%,経胸壁心エコー:Dd/Ds 43mm/26mm,Ao/LA 37mm/31mm,EF 70%,trivial Arシグナルのみ.RCC逸脱・変形なし.収縮期にRCC付着部から右室へごくわずかな血流シグナルを認めた.右バルサルバ洞拡大を認め,バルサルバ洞動脈瘤と診断.心音図:収縮期雑音記録されず.経食道心エコー:右バルサルバ洞拡大を認めたが,シャントシグナルは認めなかった.以上より,右バルサルバ洞動脈瘤に対し,手術施行.
【手術所見】
右バルサルバ洞には右室流出路に突出した,膜状組織による10x12mmの動脈瘤を認め,パッチ閉鎖術施行.術中所見として,瘤破裂,VSDシャントは確認できなかった.
【考察】
右バルサルバ洞動脈瘤はKirklin I型VSDと合併することが知られている.20年前心カテーテル検査ではバルサルバ洞拡大は指摘されておらず,バルサルバ洞はVSDに伴い,20年間で徐々に拡大したと推測される.1975年今野らは,いわゆるprolapsing ARがKirklin I型VSDにとりわけ多いことと,右バルサルバ洞動脈瘤がKirklin I型VSDにのみ合併したという経験から,このタイプのVSDとprolapsing ARとバルサルバ洞動脈瘤が一連の疾患であると報告した.現在では,VenningやEdwardsらの大動脈の組織学的異常と関連する説が主流だが,本症例は今野の仮説を説明しうる所見とも考えられる.無症状の未破裂バルサルバ洞動脈瘤の手術適応は確立していないが,本症例は,胸部症状を訴えており,放置すれば時間とともにさらに拡大し,破裂のリスクは高くなると考え,手術の方針となった.
【まとめ】
精査にてバルサルバ洞動脈瘤が発見され,後ろ向きに長期経過観察による変化をとらえることのできた貴重な症例と考え,報告する.