Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
工学基礎 組織性状評価

(S556)

高周波超音波を用いた周波数特性による赤血球凝集サイズ計測と臨床応用

Size estimation of red blood cell aggregation using frequency spectrum properties with a high-frequency ultrasound and its clinical application

黒川 祐作1, 榊 紘輝3, 瀧 宏文1, 2, 八代 諭4, 長澤 幹4, 石垣 泰4, 金井 浩1, 2

Yusaku KUROKAWA1, Hiroki SAKAKI3, Hirofumi TAKI1, 2, Satoshi YASHIRO4, Kan NAGASAWA4, Yasushi ISHIGAKI4, Hiroshi KANAI1, 2

1東北大学大学院医工学研究科医工学専攻, 2東北大学大学院工学研究科電子工学専攻, 3東北大学工学部情報知能システム総合学科, 4岩手医科大学内科学講座糖尿病・代謝内科分野

1Dept of Biomedical Eng., Graduate School of Biomedical Eng., Tohoku University, 2Dept of Electronic Eng., Graduate School of Eng., Tohoku University, 3Dept of Information and Intelligent Systems, Faculty of Eng., Tohoku University, 4The Department of Internal Medicine Division of Diabetes and Metabolism, Iwate Medical University

キーワード :

【目的】
赤血球凝集は血液の粘性を決定する要因の一つであり,血液の性状に重要な役割を果たす[1].過剰な赤血球凝集は,血栓症,動脈硬化,糖尿病,脂質異常症といった循環器疾患を引き起こす要因となることが考えられる.そのため,赤血球凝集度の評価は,これら疾患の極早期段階での診断に有用であると考えられる.
本報告では,高周波超音波照射時の散乱波周波数特性を用いた非侵襲かつ定量的な赤血球凝集度の評価を目指す.in vivo計測において,複数の健常者と糖尿病患者の赤血球・赤血球凝集体のサイズ推定の結果より,凝集度評価の臨床応用の可能性を示す.
【方法】
本報告では中心周波数40MHzの高周波超音波を手甲静脈に照射し,赤血球からの散乱波の周波数特性から凝集サイズを推定する.赤血球は長径が約8μmであり,40MHzの超音波の波長(約38μm)と比べて十分小さい散乱体である.単体の赤血球のような微小な散乱体の散乱特性はレイリー散乱に従い,散乱波パワーの周波数特性は周波数の4乗に比例する[2,3].一方,赤血球凝集が発生し,散乱体サイズが大きくなると平面反射体とみなせるようになり,パワーは周波数依存性を示さなくなる.本報告ではこの散乱特性の違いを利用し,赤血球凝集体のサイズ推定を行う.赤血球凝集体を球散乱体と仮定し,表面に無限小の点音源が無数に位置している散乱体を仮定することで,散乱体の各直径に対応する理論的なパワースペクトルが得られる.計測によって得られたパワースペクトルと各散乱体直径の理論スペクトルとで最小二乗法によるフィッティングを行い,散乱体直径を決定する.
血管内腔から計測された散乱波のパワースペクトルには,散乱特性だけでなく伝搬媒質の減衰特性などの周波数特性が含まれる.そのため,周波数依存性のない反射体と考えられる血管壁からの反射波のパワースペクトルを参照スペクトルとして正規化することで,赤血球凝集体の散乱特性のみを抽出することが可能である.ただし,血管壁の厚みは一定でないため,取得する時間窓内に中膜−外膜境界からの反射波が含まれる場合がある.本報告では,時間窓内の反射波のパワーの比を用いて内腔−内膜境界からの反射波のみ含まれる走査線を選択し,コヒーレント加算を行うことで参照パワースペクトルを算出した.計測対象は健常者と糖尿病患者の手甲静脈とし,1分間の安静状態から駆血により血流を止め,駆血開始時から2分間の散乱体サイズ経時変化を計3分間計測した.
【結果】
参照パワースペクトルの算出では,使用する走査線の選択と適切な窓関数設定により,全ての被験者においてスペクトルのディップを回避し,コヒーレント加算を行うことにより,SN比が約15dB〜20dB改善した.赤血球からの散乱波のパワースペクトルでは,健常者と糖尿病患者の間で形状に差が見られ,特に強度において約5〜10dBの明確な差が現れた.また,推定された平均散乱体サイズは,健常者では安静時が7μm,駆血時が28μmであった.一方,糖尿病患者では安静時が14μm,駆血時が35μmであった.
【結論】
健常者と糖尿病患者の間で,赤血球からの散乱波のパワースペクトルに明確な差が現れた.また一部の患者で,安静時と駆血時における散乱体サイズが健常者より著しく大きく推定された.これらから,本手法による赤血球凝集度評価の臨床応用の可能性が示唆された.
【参考文献】
[1]C. C. Huang and S. H. Wang, Jpn. J. Appl. Phys., 45,pp. 7191-7196,2006.
[2]M. F. Insana, R. F. Wagner, D. G. Brown, and T. J. Hall, J. Acoust. Soc. Am., 87,pp. 179-192,1990.
[3]T. Fukushima, H. Hasegawa, and H. Kanai, Jpn. J. Appl. Phys., 50,07HF02,2011.