Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

奨励賞演題
奨励賞演題 体表臓器 奨励賞演題 体表臓器

(S530)

進行期関節リウマチに対する厳格な寛解基準の問題点と,関節エコーの有用性の検討

The problem in application of stringent remission criteria to established rheumatoid arthritis patients, elucidated by ultrasonography

辻 侑子1, 中坊 周一郎2, 稲垣 舞子1, 辻 英輝2, 中島 俊樹2, 布留 守敏3, 4, 橋本 求3, 伊藤 宣3, 4, 藤井 隆夫2, 5, 藤井 康友1

Yuko TSUJI1, Shuichiro NAKABO2, Maiko INAGAKI1, Hideaki TSUJI2, Toshiki NAKAJIMA2, Moritoshi FURU3, 4, Motomu HASHIMOTO3, Hiromu ITO3, 4, Takao FUJII2, 5, Yasutomo FUJII1

1京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻生理機能・超音波研究室, 2京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学, 3京都大学医学部附属病院リウマチセンター, 4京都大学医学部附属病院整形外科, 5和歌山県立医科大学附属病院リウマチ・膠原病科

1Human Health Sciences Clinical Physiology and Ultrasound Labo, Graduate School of Medicine Kyoto University, 2Department of Rheumatology and Clinical Immunology, Graduate School of Medicine Kyoto University, 3Department of the Control for Rheumatic Diseases, Kyoto University Graduate School of Medicine, 4Department of Orthopaedic Surgery, Kyoto University Graduate School of Medicine, 5Department of Rheumatology and Clinical Immunology, Wakayama Medical University

キーワード :

【背景と目的】
関節リウマチ(RA)は全身の関節滑膜に炎症が起こり,進行性に関節破壊が起こる自己免疫性疾患である.近年,治療薬の進歩によりRAの治療目標が鎮痛から寛解導入に大きく変化し,寛解基準を維持することで関節破壊を予防できるようになってきた.しかし,旧来の寛解基準を満たしていても関節破壊が進行する例があることがわかり,より厳格な寛解基準が用いられるようになっている.中でもBoolean寛解(BR)は圧痛関節数,腫脹関節数,CRP値,患者による自己全般評価(PtGA)が全て1以下という条件を満たすもので,最も厳格な寛解基準とされる.しかしこのBR基準は患者評価を含むことからある種の曖昧さを含み,例えば進行期RA患者では既存の関節破壊により痛みが残るため,炎症が抑えられていてもPtGAが下がりにくい.そのため実臨床の場では進行期RAはPtGA以外がBR基準を満たしていれば良いとする考え方があるが,その妥当性は明らかではない.
関節エコー(US)は医師の診察所見とも患者の主観とも独立した客観的な病勢評価ツールとしてRA診療の現場で広く使用されている.滑膜炎はパワードプラ(PD)シグナルによる血流増多として描出され,PDシグナルの存在は関節破壊の進行に相関する.
今回我々はUSを用いて進行期RAに対してBR基準を適応することの問題点を調べた.
【対象と方法】
対象は2015年5〜8月に当院リウマチセンターを受診したRA患者のうち同意を得てエコーを施行した253名.対象関節は両側2-5MCP,手関節,足関節,2-5MTPとした.機器は東芝社製Aplio500,12MHzリニア型探触子を用いた.走査は医師3名・検査技師2名のいずれかが行い,グレースケール(GS)と,Superb Micro-vascular Imaging(SMI)で検出したPDシグナルを日本リウマチ学会ガイドラインに従い0〜3の4段階でスコアリングした.なお標準化のためスコアは検者5名中2名の合議に依った.臨床評価はエコー所見にblindで別の医師が行い,Kyoto University Rheumatoid Arthritis Management Alliance(KURAMA)コホートデータベースに蓄積した.そしてPtGAだけがBR基準を満たさない例をSemi-Boolean寛解(SBR)例と定義し,BR例と比較検討した.
【結果】
臨床情報とUS所見情報が欠損値なく得られた197例のうち,BR例は49例,SBR例は82例だった.両群で年齢,罹病期間,関節破壊の強さ(Steinbrocker stage),治療内容,総GSスコア,総PDスコア(PDS)に差はなく,PtGAを除いてほぼ同質の患者群と考えられた.また,PtGAとPDSの相関を調べると,SBRのstage Iで弱い正の相関が見られたほかは,BR,SBRのいずれのstageでも相関は見られなかった.
次に,low stage群(Steinbrocker stageのI+II),high stage群(同III+IV)に分割して検討したところ,BR,SBRのいずれでもlow stage群に比べhigh stage群でPDSが有意に高かった(P=0.026,0.040).またBR例とSBR例を合わせて解析しても同様の結果であった(P=0.002).
さらに,対象症例の各stage別に関節ごとのPD陽性関節と圧痛関節の一致率を調べたところ,全般に高いstageほど一致率が低くなっていた.
【考察】
BRとSBRがPtGAを除いてほぼ同質の患者群であったことやPDSとPtGAが相関しなかったことは,高いPtGAは許容できることを示唆する.しかし関節破壊が進んだhigh stage群では,BR,SBRの両群でPDSがlow stage群より高く,かつ診察所見とUS評価の一致率が低いことに注意が必要である.すなわち滑膜炎の評価は患者にとって困難である一方で,進行期RAでは医師にとっても困難になることを意味する.
【結論】
進行期RA患者の評価には積極的にUSを用いるべきである.