Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

奨励賞演題
奨励賞演題 基礎 奨励賞演題 基礎

(S520)

剪断波速度の周波数依存性によるブタ肝臓の粘弾性分布測定

Viscoelasticity mapping of porcine liver using frequency dependence of shear wave speed

五明 美香子, 近藤 健悟, 山川 誠, 椎名 毅

Mikako GOMYO, Kengo KONDO, Makoto YAMAKAWA, Tsuyoshi SHIINA

京都大学医学研究科人間健康科学系専攻

Graduate School of Medicine, Kyoto University

キーワード :

【目的】
癌などの疾患では組織性状が変化することが知られており,主な指標の一つである弾性は臨床で既に活用されている.一方で粘性特性は早期診断に有用となる報告があるが,その計測法や病態との関連性は検討の余地がある.本報告では剪断波速度の周波数依存性を用いて,ブタ肝臓組織の粘弾性特性を分布として示した.
【方法】
体表からの計測を想定し,摘出ブタ肝臓(厚さ約15mm)に濃度1%の寒天ファントム(厚さ15mm)を重層して診断用リニアプローブにより測定した.提案手法では,弾性計測のために開発されたUltrafast imaging法ではなくB-mode像のスペックルノイズ低減等を目的として臨床でも用いられているCompound imaging法を適用することにより,減衰が大きく内部の構造物や不均質性のある動物組織においても,剪断波速度の伝搬を観測できた.
音響放射圧を短時間に同一軸深度方向に複数照射することで発生する剪断波を平面状に伝搬させ,照射軸を方位方向へ移動して足し合わせることで,信号対雑音比を向上させている.伝搬波速度は隣接2点間の位相差を用いて各画素で導出し,156,234,312 Hzで得られた速度をVoigtモデルに適用して剪断粘弾性係数を求めた.提案手法で得られた値の評価として,動的粘弾性測定装置(DMA)により試料小片の剪断試験を行った.
【結果・考察】
Fig.1に寒天層(矢印は境界面)とブタ肝臓のB-mode像,Fig.2,3には剪断弾性係数mu1と剪断粘性係数mu2を示している.層の境界面が実際より浅部に見られる点については,寒天は肝に比して剪断波が伝搬しやすく減衰も小さいため,境界から肝の剪断波成分が漏れだしたことが原因となることが剪断波伝搬情報より明らかになっている.
Fig.4にはDMAと提案手法による周波数毎の剪断波速度を示した.DMAは3試料小片から得た平均値,提案手法の値はFig.1内の各層12 mm x 9 mm領域を平均して得た.肝の値は提案手法とDMAの傾向は一致していると言える.寒天については上述の通り肝から伝わる剪断波の影響を受けて見かけ上の剪断波速度が大きくなったと考えられる.このグラフから得られたmu1とmu2は,寒天4.92 kPa / 2.37 Pa・s,肝臓3.07 kPa / 2.44 Pa・sであった.
境界部での課題はあるが,提案手法ではブタ肝臓の粘弾性分布を幅広く深部まで得ることができた.今後は病変動物や生体におけるin vivo測定を進め,粘弾性特性を今日の弾性特性診断のような病態診断へ活用することを目指す.