英文誌(2004-)
特別プログラム 運動器
パネルディスカッション 運動器(一部英語) 知っとく(得)! 救急現場における運動器超音波
(S493)
肉離れと筋挫傷の超音波診療
Ultrasound assessment and intervention of muscle strain and contusion
服部 惣一
Soichi HATTORI
亀田メディカルセンタースポーツ医学科
Department of Sports Medicine, Kameda Medical Center
キーワード :
1.はじめに
救急現場で遭遇する筋肉の病態としては,肉離れと筋挫傷の頻度が高い.両者とも単純X線写真よりも超音波検査の方が正確に病態を診断できる.超音波検査は病院の救急外来で有用なだけでなく,そのポータビリティーによって,スポーツ現場など病院外の救急現場での評価において力を発揮する.今回は超音波検査器を用いた肉離れと筋挫傷の診断について解説する.
2.筋肉の超音波解剖
骨格筋は筋線維と結合組織からなり結合組織には四層の「膜」が含まれる.
・筋内膜:筋線維を取り囲む
・筋周膜:筋線維の束である筋束を取り囲み結合する
・筋外(上)膜:結合された筋束を取り囲む
・腱膜(筋内腱):筋束と筋周膜が付着する
*筋線維(とその集合である筋束)は低エコー領域として描出される.
*筋周膜,筋外膜ならびに腱膜などの「膜」は線状高エコーの結合組織として描出される.筋内膜は微細な結合組織であり超音波では捉えられない.
3.肉離れ
肉離れは「走る」「蹴る」といったスポーツ活動により生じ,ハムストリングス・大腿直筋・腓腹筋内側頭が好発部位である.これらの二関節筋(大腿直筋など,股関節・膝関節の2つ以上の関節をまたぐ筋)が急激に遠心性収縮(筋肉が引き延ばされながら収縮すること)した際に,腱膜ないしは腱に筋が移行する部分で断裂する場合が多い.
超音波では「筋周膜の連続性」と「血腫」によって重症度の評価を行なう.
・軽症:筋周膜の断裂が不明か一部(筋全体の5%以下の断裂)であり,血腫の形成があってもごく少量である.
・中等症:筋腱移行部や筋腱膜移行部での断裂があり,はっきりした血腫があれば中等症(筋全体の5%以上でいわゆる部分断裂)となる.
・重症:筋や腱の完全断裂(エコーを当てながらの動的な評価が手助けとなる)があり,多量の血腫を伴えば重症となる.外科的治療が必要とされる可能性があるため専門医への紹介が必要であるが,翌日以降の紹介でよい.
4.筋挫傷
筋挫傷は筋肉への直接的な外力が契機となる.直達外力と骨との圧挫よって筋挫傷が生じるため,下肢の正面側に位置する筋に起こりやすく,中間広筋,内側広筋,外側広筋などが好発部位である.
筋挫傷でもやはり「筋周膜の連続性」と「血腫」によって重症度の評価を行なう.
・軽症:筋周膜の断裂が不明瞭で血腫が少量なら軽症である.健側と比較することで初めて認識できる程度であれば少量の血腫と言える.
・重症:筋周膜が断裂し多量の血腫が認められれば重症で,血腫の除去や専門医へのコンサルトが必要となる.患側のみの評価だけでも明らかに血腫が同定できれば中等量〜多量の血腫と考えてよい.
注意すべきは最初の24〜48時間以内での超音波評価である.この時期では血腫が低エコー領域として描出されないため偽陰性となることがある.48時間以降も経時的に評価することが必要である.
5.おわりに
スポーツ現場や救急外来などの救急現場において,肉離れや筋挫傷の評価は超音波検査が第一選択となる.単純X線やCTでは筋肉の評価は不十分である.軟部組織の描出に優れるMRIはすぐに撮像できない場合が多い.2019年ラグビーワルドカップ日本開催と2020年東京オリンピックパラリンピックに向けて,運動器超音波検査のさらなる普及が急務である.