Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 運動器
シンポジウム 運動器(一部英語) 新しい超音波技術で運動器を評価する

(S490)

スポーツ選手の骨強度

Bone Strength in Athletes

藤澤 義彦1, 2, 3, 4

Yoshihiko FUJISAWA1, 2, 3, 4

1同志社大学スポーツ健康科学部, 2同志社大学理工学部, 3同志社大学研究開発推進機構, 4京都学園大学健康医療学部

1Faculty of Health and Sports Science, Doshisha University, 2Faculty of Science and Engineering, Doshisha University, 3Organization for Research Initiatives and Development, Doshisha University, 4Faculty of Health and Medical Sciences, Kyoto Gakuen University

キーワード :

【概要】
われわれはスポーツ選手の競技力向上を目的として,「スポーツ選手の資質」について研究している.当初は,演者の専門競技種目であるフェンシングに必要とされる身体的因子を中心に評価をしていたが,現在は対象を拡大して,種々のスポーツ選手に必要と考えられる外的および内的資質について検討を行っている.内的資質の項目のひとつに「骨強度」があり,本発表では「スポーツがアスリートの骨強度に与える影響」について,骨密度とともに骨強度の重要な要素である骨質の評価が可能とされる超音波骨密度測定装置LD-100(応用電機株式会社製)を用いて検討を加えた結果を報告する.
【超音波骨密度測定装置LD-100】
LD-100は同志社大学理工学部超音波研究室と応用電機株式会社が共同開発し,超音波の高速波と低速波の2波の伝搬特性を利用して,骨の内部構造とともに骨強度すなわち骨密度および骨質の定量的評価が可能な装置であり,pQCTとの皮質骨厚と海綿骨骨密度の測定値間の相関関係が非常に高いことからその信頼性は証明されている1).また,従来のX線法では計測不可能な骨の構造的弾性を被曝なく頻回に評価できるため,より多角的にスポーツ活動と骨強度との関係についての検討を行うことが可能という利点を有する.
【主な研究結果】
一般に骨は,骨強度が高いと骨密度とともに骨質を示す海綿骨弾性定数も高い値を示す.コンタクトスポーツの代表であるアメリカンフットボール選手と同世代の一般人を比較すると,アメリカンフットボール選手の骨密度,皮質骨厚,海綿骨弾性定数は有意に高い値を示した.このことから日常的にウェイトトレーニングを行うことで,骨密度,皮質骨厚,海綿骨弾性定数が増加し,より強い骨が形成されていることが示唆された.また,先行研究ではバーベルなどの重量物を単純に持ち上げるパワーリフティング(例:ベンチプレス,スクワット)の記録と骨密度との関連性が指摘されていたが,われわれの研究では速度×力の積であるパワーを強調したオリンピックリフティング(例:クリーン)の方が骨密度と有意な正の相関を認めることが示された.
しかし,パワーを追及する種目ではないフェンシングのトップレベル選手の中には,非常に高い骨密度を示すにも関わらず海綿骨弾性定数が低い値を示す選手が存在する2).すなわち「強いが非常にしなやかな骨」を持つ選手と評価できる.この値を示した選手は,一人がオリンピック・メダリストで,もう一人は全日本チャンピオンであった.これは,種目別の競技力向上策を検討する上で,看過出来ない“事実”であると考えている.
【今後の展望】
現在のスポーツ競技力向上策は,従来の「選抜強化型」から,「発掘育成型」に変化している.将来の一流スポーツ選手を育成するためには,一般的なトレーニングをルーティンでこなす時代は終了しており,これからは多角的にスポーツ選手の内的・外的資質を各種測定により検討し,その成果を新人の発掘や新しいトレーニング・メニューの開発に利用しなければならない.スポーツ選手の内在的資質のひとつである骨強度(骨密度および骨質)の評価は,競技特性に合わせた選手の発掘という観点から今後さらに重要性が増すものと考えている.
【参考文献】
1.T.Otani, I.Mano,et al; Estimation of in vivo cancellous bone elasticity, Jpn. J. Appl. Phys., 48(7),2009.
2.藤澤義彦,田淵和彦;スポーツ選手の資質の検討における骨密度測定の可能性,同志社保健体育,44,29-44,2005.