Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 血管
パネルディスカッション 血管 1 下肢静脈エコーの現状と課題-診断から治療まで-

(S468)

下肢深部静脈エコー検査手順の検討

Examination of the lower limbs deep part vein echo check procedure

谷口 京子1, 小谷 敦志2, 河野 ふみえ1, 橋本 三紀恵1, 後藤 千鶴1, 谷 加奈子1

Kyouko TANIGUCHI1, Atsushi KOTANI2, Fumie KOUNO1, Mikie HASHIMOTO1, Chizuru GOTOU1, Kanako TANI1

1近畿大学医学部附属病院中央臨床検査部, 2近畿大学医学部奈良病院臨床検査部

1Department of the Center Medical Technology, Kindai University Hospital, Faculty of Medicine, 2Department of Medical Technology, Nara Hospital Kindai University Faculty of Medicine

キーワード :

【はじめに】
エコーによる下肢深部静脈血栓症の検索手順は,日本超音波医学会より『下肢深部静脈血栓症の標準的超音波診断法』が提唱されている.しかし,下肢深部静脈血栓(以下DVT)は下腿に認められることが多く,なかでもヒラメ静脈に形成されることが多いとされている.今回我々は,DVTの検査手順を下腿部から中枢側に向けて行いその検査時間と安全性について検討したので報告する.
【対象と方法】
2015年9月から2016年1月に当院で下肢深部静脈エコー検査を実施した364例を対象とした.方法は,仰臥位で腸骨静脈または大腿静脈より検査を開始する方法を現行法とし,ベッド座位にてヒラメ静脈を開始静脈とし,下腿部から中枢側に向けて検査を開始する方法を下腿開始法として,2つのグループに分け検査時間と患者の安全性について検討した.計測項目は従来のルーチン検査と同様とし,血栓の判定基準は『下肢深部静脈血栓症の標準的超音波診断法』に基づいて実施した.超音波装置はTOSHIBAメディカル社製aplioまたはaplioXVを使用,探触子は3.5MHzコンベックス型プローブ,8MHzリニア型プローブを主に使用した.検査時間の計測は患者に超音波ゼリーをつけた時から検査終了までとした(着替えやレポート作成は含まない).検査時間について有意差検定を行ない,P<0.05を統計学的に有意とした.
【結果】
1)血栓の有無内訳
DVTは全例364例中142例(39%)に認めた.血栓症例のうち,ヒラメ静脈に血栓を認める症例は110例(77%)であった.
2)検査時間
現行法の検査時間は17.7±13.3分,下腿開始法では18.3±11.9分であった.グループ間で検査時間の差は認めなかった(p<0.05).
3)患者の体位
座位姿勢ができず仰臥位のみで施行した症例は全例中7例(1.9%)であった.また,臥位姿勢ができない症例やベッドに移乗できず座位姿勢のみで検査を施行した症例は全例中2例(0.005%)であった.
4)患者の安全性
現行法で実施した場合の利点は,中枢型血栓を先に見つけることができるため検査をより慎重に行うことができる点であった.欠点は膝窩静脈の血流鬱滞が強い場合に安易にmilking操作をできないことや,血栓の中枢端が膝窩静脈である場合は下腿開始法の方が効率的であるという点であった.
下腿開始法での利点はヒラメ静脈血栓を先に同定できることで安心して検査を行える点や,座位姿勢から検査を開始するため妊婦症例では楽な姿勢から検査を開始できることなどであった.欠点は,他の画像診断で腸骨静脈血栓の存在がすでにわかっている症例には下腿から開始すると血栓部位までの到達に時間がかかることであった.  
【考察】
DVTはヒラメ静脈の頻度が最も高いと言われており,我々の検討結果でもヒラメ静脈に高率に血栓を認めた.血栓形成頻度の高い部位より検査を行うことで,不要なmilking操作や強い圧迫を回避でき,安全面に配慮した検査手順で施行できると考えられた.また,下腿開始法ではベッド座位姿勢から検査を開始するため,ベッド移乗が容易となり転倒や転落を回避できると考えられた.
検査の所要時間に関しては,両群間で差は認めず,下腿開始法でもルーチン業務に支障はないと考えられた.
【結語】
『下肢深部静脈血栓症の標準的超音波診断法』では,大腿静脈から検査を開始することが推奨されているが,下腿部から中枢側に向かって検査を実施しても血栓の同定や安全性に差は無かった.むしろヒラメ静脈の血栓形成の頻度が高いことから,下腿部から中枢側に向かって検査施行した方が,検査開始すぐに下腿部の血栓を発見できる可能性があるため,検者と被検者の双方に安全面で有意義な方法と考える.