Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 甲状腺
パネルディスカッション 甲状腺(JSUM・JABTS共同企画) 小児の甲状腺超音波検診

(S432)

3県の有所見率調査の結果について

Thyroid Ultrasound Findings in Children from Three Japanese Prefectures

林田 直美1, 2, 今泉 美彩1, 2, 志村 浩己1, 2, 大久保 礼由1, 2, 浅利 靖1, 2, 二川原 健1, 2, 緑川 早苗1, 2, 小谷 和彦1, 2, 中路 重之1, 2, 大津留 晶1, 2, 赤水 尚史1, 2, 貴田岡 正史1, 2, 鈴木 眞一1, 2, 高村 昇1, 2, 山下 俊一1, 2, 谷口 信行1, 2

Naomi HAYASHIDA1, 2, Misa IMAIZUMI1, 2, Hiroki SHIMURA1, 2, Noriyuki OKUBO1, 2, Yasushi ASARI1, 2, Takeshi NIGAWARA1, 2, Sanae MIDORIKAWA1, 2, Kazuhiko KOTANI1, 2, Shigeyuki NAKAJI1, 2, Akira OTSURU1, 2, Takashi AKAMIZU1, 2, Masafumi KITAOKA1, 2, Shinichi SUZUKI1, 2, Noboru TAKAMURA1, 2, Shunichi YAMASHITA1, 2, Nobuyuki TANIGUCHI1, 2

1甲状腺結節性疾患有所見率等調査委員会, 2甲状腺結節性疾患追跡調査委員会

1The Investigation Committee for the Proportion of Thyroid Ultrasound Findings, 2The Follow-up Survey Committee for the Proportion of Thyroid Ultrasound Findings

キーワード :

2011年に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故後,福島県では福島事故による県内の放射能汚染を踏まえ,被ばく線量の推計と,将来にわたる健康管理の推進等を目的として県民健康調査が行われている.この調査では,震災時18歳未満の全県民を対象とした甲状腺超音波検査を,20歳までは2年ごと,それ以降は5年ごとに繰り返し行うこととなっている.2014年3月までに「先行検査」が終了し,現在は「本格検査」として順次実施されている.しかし,我が国においては,18歳以下の者における甲状腺を広範囲に調査した報告はなく,我が国における有所見率の調査が求められている.
そこで,甲状腺結節やのう胞などの甲状腺結節性疾患の有所見率等,県民健康調査の結果の評価に必要な知見を収集することを目的に,甲状腺結節性疾患有所見率等調査事業として,平成24年度に「甲状腺結節性疾患有所見率等調査」を行った.この調査は福島県以外の3県(青森県,山梨県,長崎県)で,福島県と同様の方法で小児を対象とした甲状腺超音波検査を行ったものである.
本調査の対象者は3県の幼稚園,小学校,中学校,高等学校の児童生徒のうち,保護者に対して,文書によるインフォームド・コンセントを行い,保護者からの同意が得られた児童生徒4,365人.福島県民健康調査と同じ超音波装置(GE社製 LOGIQ eExpert)を用いて,福島県民健康調査と同様の方法で甲状腺超音波検査を行い,結果も県民健康調査の判定基準で分類した.判定に苦慮する場合は,調査委員会に設置した判定基準ワーキンググループで判定を行った.3県の対象者全体の甲状腺超音波検査の結果から,一般の小児の甲状腺の有所見率を調査するとともに,結節やのう胞などの各所見ごとの特徴や頻度を詳細に検討した.
さらに,平成25年度には原子力災害影響調査等事業「甲状腺結節性疾患追跡調査」として,平成24年度「甲状腺結節性疾患有所見率等調査」でB判定となった44人のうち,二次検査を受け,調査に同意が得られた31人を対象に精密検査の結果を把握するための調査を行った.
有所見率等調査の結果,各判定区分において,のう胞・結節とも認めないA1判定は42.5%,5mm以下の結節または20mm以下ののう胞を認めたA2判定は56.5%であった.また,5.1mm以上の結節または20.1mm以上ののう胞を認めたB判定は1.0%であった.結節とのう胞の両所見を認めた対象者も含めて検討すると,のう胞は全体の56.88%に認められた.また,すべてのサイズを含めると,結節は1.65%の小児に認められた.
追跡調査の対象となった31人のうち,男性は7人,女性は24人で,年齢分布は,二次検査を行った時点で4歳から19歳であった.有所見率等調査でB判定であった者のみが対象であったが,二次判定時には,A1判定が4人,A2判定が7人,B判定が20人であった.このうち,細胞診が必要と判断され,施行されたのは2人であり,うち1人が乳頭がんと診断された.
一連の調査では,有所見率等調査にその後の診察結果の調査は含まれていなかったこと,また,追跡調査ではきわめて限定された対象者から,より詳細な情報をいただくことが必要であり,同意をいただくことが容易ではなかったことに調査の限界がある.しかしながら,これらの調査によって,日本の一般的な小児に認められる甲状腺の所見とその頻度について,福島における甲状腺超音波検査結果の解釈に有益な情報を与えることができた.本調査の結果は今後の小児甲状腺検査を議論する上でも有用な情報になると考える.