Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 甲状腺
シンポジウム 甲状腺(JSUM・JABTS共同企画) 新しい甲状腺結節超音波診断基準を巡って

(S424)

甲状腺微小乳頭癌の経過観察(2015 ATAガイドライン改訂を巡って)

Active surveillance of low-risk papillary thyroid microcarcinoma(Over the revision of ATA guideline 2015)

福島 光浩1, 太田 寿2, 宮内 昭1

Mitsuhiro FUKUSHIMA1, Hisashi OTA2, Akira MIYAUCHI1

1隈病院外科, 2隈病院臨床検査科

1Department of Surgery, Kuma Hospital, 2Department of Clinical Laboratory, Kuma Hospitall

キーワード :

2015年に改訂されたATAガイドラインにはいままでと大きく変更された点がいくつかあった.そのなかで甲状腺超音波検査に大きく関連すると思われるのは,甲状腺乳頭癌初期治療方針の手術術式の選択と最大径1cm以下の微小甲状腺乳頭癌の取り扱いだろう.微小甲状腺乳頭癌の取り扱いでは,1cm以下の甲状腺微小乳頭癌でリンパ節転移や局所進展のないものは,たとえ画像上で癌を疑っても細胞診による診断をしないことを推奨し,またたとえ癌と診断がついたとしてもすぐに手術を行うのではなく経過観察(active surveillance)が選択肢のひとつとして採択された.これらの変更点の元になっているのは低リスク甲状腺乳頭癌を発見手術することへの過剰診断(over diagnosis)過剰治療(over treatment)という危惧である.微小癌に関しては過剰診断,過剰治療を裏付けるいくつかの報告がある.我が国ではすでに1994年に武部らが乳癌検診に訪れた30歳以上の女性に超音波と細胞診による甲状腺癌検診を行い,受診者の3.5%に甲状腺癌を発見しそのうちの84%が微小癌であったと報告している.この頻度は臨床癌のおよそ1000倍にあたる.アメリカにおいても2006年にDaviesとWelchが,甲状腺癌の罹患率が2.4倍に増加しており,その主たる理由は1cm以下の微小癌の発見率が増加しているためであると発表した.そして約30年間甲状腺がんの死亡率は全く変わっていないことから発見されている微小癌は生命予後にかかわらないもので過剰診断,過剰治療である可能性を指摘した.世界に先駆けてわが国では隈病院と癌研病院から低リスク微小癌の経過観察(active surveillance)による結果が報告されている.隈病院では1993年に現院長の宮内が,低リスクの微小癌はすぐに手術をせずに経過観察し仮に少し進行したとしてもその時点で手術を行えば問題ないだろうと考え低リスク微小癌の経過観察を提案し,患者に微小癌経過観察の選択肢を示すことが開始された.その後2013年に伊藤,宮内らにより,10年間の微小癌経過観察の結果,①サイズの増大およびリンパ節転移出現率は各々8%及び4%,②高齢者ほど進行する症例が少なく,若年者は進行する症例が多い,③経過観察中に遠隔転移出現および癌死症例は皆無,であることが報告された.今回はその結果を紹介するとともに最近の知見を報告する.
【症例・方法】
1995年5月から2012年12月の期間に当院初診し細胞診で甲状腺乳頭癌と診断された症例で,長径10mm以下の低リスク群で1年以上経過観察された1,252例のうち,1年以上経過観察後に何らかの理由で手術に転じたのは233例で,その理由が腫瘍の増大もしくは新たなリンパ節転移の出現であることが明らかな症例それぞれ29例と8例を記録されている超音波画像所見を項目別にRetrospectiveに検討した.検索時点で経過観察を継続中の1,019例を対照とした.
【結果】
多重ロジスティック回帰分析,ステップワイズ法で多変量解析したところ,「腫瘍増大のため手術になった因子」の独立した関連項目としてあがったのはacoustic shadowを伴う高エコーがみられないこと,初診時年齢が60才未満であること,微細高エコーがみられないこと,「リンパ節転移のため手術になった因子」の独立した関連項目としてあがったのは,初診時年齢が40才未満であること,微細高エコーがみられないこと,だった.
【まとめ】
超音波所見は経過観察可能な微小乳頭癌選別に有用かもしれない.