Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 乳腺
シンポジウム 乳腺(JSUM・JABTS共同企画) 乳腺における造影超音波の位置づけ

(S398)

超音波造影剤の奇妙な音響特性

Unique acousti property of ultrasound contrast agent

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

超音波の照射下にある微小気泡は,音響エネルギーを吸収して膨張・収縮運動を生じる.吸収されたエネルギーの一部は熱に変換されて気泡周囲の液体に拡散し,また一部は気泡振動によって再放射される超音波のエネルギーとなる.気泡の複雑な振動により発生した高調波成分が造影超音波に利用されるので,気泡懸濁液の減衰特性は造影効果を評価する重要な指標となる.
一般の超音波診断に用いられる音圧レベルでは,生体組織に照射する超音波の音圧を大きくすると生体組織を透過した超音波の音圧も増加するが,透過音圧を照射音圧で除した減衰特性は一定となる.すなわち,生体組織の減衰特性は測定に用いる超音波の音圧に依存しない.一方,微小気泡の膨張・収縮運動は印加される超音波の音圧によって大きく変化するため,気泡が消費するエネルギーも超音波の音圧に強く依存し,減衰特性が音圧依存性を持つ.図1は,ソナゾイドとレボビストの減衰係数の周波数特性を種々の超音波の音圧で調べた結果である.各造影剤の微小気泡が6から10 MHzの周波数帯域の超音波エネルギーを吸収していること,音圧が高くなると気泡の振動が激しくなり,より多くのエネルギーが吸収されていることがわかる.またソナゾイドの減衰係数の変化幅は,レボビストよりも3倍以上大きく,これらの造影剤の造影能の違いも反映している.
このような特性は,観察対象である組織内の気泡濃度が同じであっても,可視化に用いる超音波の音圧によって画像輝度が変わってしまうことを意味する.このような奇妙な特性は一般的な超音波造影法ではあまり問題にならないが,造影画像を定量的に評価する場合には注意する必要がある.心筋造影超音波では,観察対象である心筋組織の近傍にある心腔内の造影剤の輝度を基準として輝度を相対的に評価する方法が提案されている.表在組織である乳腺の造影診断では心筋のような大きな問題とはならないと考えられるが,観察部位と超音波プローブの間に減衰の高い領域が介在しないようにする必要がある.