Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
パネルディスカッション 産婦人科 子宮を診る—超音波検査の可能性と限界—

(S383)

エラストグラフィーによる子宮頸管の評価

Evaluation of cervical stiffness during pregnancy using ultrasound elastography

小松 篤史

Atsushi KOMATSU

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科

Department of Obstetrcs and Gynecology, The University of Tokyo Hospital

キーワード :

【目的】
子宮頸部の硬度は,子宮頸管長及びNSTにおける子宮収縮などと共に切迫早産の診断や分娩時期の予測に有用である可能性がある.しかし現時点では子宮頸部の硬度評価は検者の内診指による触覚に頼らざるを得ず,微細な変化がわからないことや客観性に欠けることが問題で切迫早産の診断や分娩時期の予測には用いられていない.しかし近年Elastography技術の開発・進歩で超音波検査による組織の硬度評価が可能になりつつあり,触覚による組織の硬度評価の問題が解決されてきている.今回我々は切迫早産症例に対して音響カプラーを用いた子宮頸部Elastographyを施行し,実際に子宮頸部の硬度評価が可能か,また妊娠予後(早産に至るか至らないか)の予測が可能かどうかにつき検討した.
【対象】
私の前任施設である長野県立こども病院において,平成24年6月から同年11月までに妊娠34週未満に切迫早産の診断にて入院管理した単胎32例を対象とした.妊娠高血圧症候群などの母体適応や胎児機能不全などの胎児適応での妊娠終了例は除外した.また子宮頸部の硬度への影響を考慮し,子宮頸管縫縮術を施行している症例は除外した.本研究は長野県立こども病院倫理委員会の承認を得ており,対象患者には全症例において口頭及び書面で説明し文書で同意を得た.
【方法】
超音波機器はHI VISION Ascendus(日立アロカメディカル株式会社)を使用し,経膣プローブEUP-V53W(6.5MHz)の先端に音響カプラーを装着して走査を行った.まず通常のB-modeで子宮頸管長を計測し,続いて子宮頸部Elastographyを施行して音響カプラーと子宮頸部のひずみ比(Strain Ratio)を計測した.常に一定の硬度を有する音響カプラーと子宮頸部とを同一の関心領域(ROI: Region Of Interest)内におき,それらのひずみ比をとることで間接的に子宮頸部の硬度評価を行った.これにより患者間の比較及び同一患者における妊娠週数の経過による推移の評価が可能となった.Strain Ratioは3回計測し,その中央値を採用した.また検者間誤差をなくすため全検査を筆者が一人で行った.
【結果】
全32症例中,15例が切迫早産治療にもかかわらず妊娠36週未満に分娩となり(早産群),17例は切迫早産治療が奏功し妊娠36週以降の分娩となった(満期産群).いずれの群においても妊娠週数の経過に伴ってStrain Ratioの低下(軟らかくなる)がみられたが,両群間に明らかな差は認められなかった.また妊娠終了を基準としてStrain Ratioの推移をみると,早産群の方が満期産群に比べてStrain Ratioが急速に低下する傾向がみられた.
【結論】
音響カプラーを用いた子宮頸部Elastographyでは妊娠週数の経過に伴ってStrain Ratioが低下しており,我々が通常の臨床において経験する妊娠経過に伴う子宮頸部の熟化(軟化)と一致する所見である.このことは音響カプラーを用いた子宮頸部Elastographyがある程度正確に子宮頸部の硬度評価を行っていることを意味する.症例数が少なく断定的なことは言及できないが,切迫早産症例においては子宮頸部が急速に軟化(Strain Ratioが低下)する場合には分娩が差し迫っている傾向にあると考えられる.以上を考慮すると音響カプラーを用いた子宮頸部Elastographyは妊娠予後の予測因子として有用である可能性が示唆される.