英文誌(2004-)
特別プログラム 産婦人科
パネルディスカッション 産婦人科 子宮を診る—超音波検査の可能性と限界—
(S382)
子宮超音波検査の潮流と焦点
“Uterus”the tide and the focus of ultrasonography
関谷 隆夫, 藤井 多久磨
Takao SEKIYA, Takuma FUJII
藤田保健衛生大学医学部産婦人科
Obstetrics and Gynecology, Fujita Health University
キーワード :
1880年のキュリー兄弟による圧電性の発見以来,第1次世界大戦において海洋探査の領域で初めて超音波が実用化され,1937年には脳疾患の診断を目的とした医学的利用が始まり,1958年にはイアンドナルドらが手動接触走査式超音波断層検査装置を完成させて腹部腫瘤を観察し,産婦人科超音波検査の幕が開いた.1980年代にはリアルタイム2次元超音波診断装置の普及に伴って,骨盤内臓器を対象とした産婦人科一般臨床検査法としての位置づけが確立し,さらに経直腸探触子を応用した経腟探触子の開発は,女性の骨盤深部に位置する子宮をはじめとした内性器の超音波画像を飛躍的に向上させ,現在では内診ともに産婦人科の基本的診察法となっている.さらに最近の医工学の進歩は,2次元断層像や超音波ドプラ法の画質向上をはじめ,多次元超音波検査をもたらし,診断補助の為の各種アプリケーションも次々と開発され,実用化されている.
子宮超音波検査では,成長と加齢はもとより性成熟期における月経周期や妊娠に伴う峡部と頸部の変化を知ることはもとより,先天異常や腫瘍を含む婦人科疾患の診断に関する知識と技能を修得することが肝要である.
■月経周期に伴う変化と妊孕性
月経周期に伴う子宮の内分泌環境を反映した内膜像の厚さと質,子宮筋最内層の蠕動に伴う波状運動が示されており,特に生殖医療の領域では,子宮内膜の厚さおよび子宮血流と妊孕性の関連についての研究が行われてきた.しかし,子宮血流の表示は従来のドプラ法を活用した研究であり,現在の高精度ドプラ診断装置や血流の定量的評価を行うことができるアプリケーションを活用すれば,さらなる知見が得られる可能性がある.また,波状運動の意義については精子の誘導や受精卵の輸送に関わることが示唆されているが未だ検討の余地がある.
■妊娠中の子宮峡部・頸管の変化
妊娠中の子宮体部の増大は,主に平滑筋細胞の膨化と結合組織の変化によるが,最も臨床的に注目すべきは,妊娠中は閉鎖してその維持に貢献する一方で,末期には開大して産道を形成する子宮峡部と頸管であろう.これらは,妊娠初期には頸管が延長するとともに峡部が生理的開大をきたして卵膜との関係が確立し,中期以降には早産に関連する頸管の早期熟化や妊娠末期の頸管熟化不全の指標として,頸管長の短縮と頸管腺領域像の不明瞭化所見が臨床の場で活用され,さらには頸管の硬度を評価するエラストグラフィーも注目されている.
■子宮腔内病変
経腟走査法と高周波探触子の開発に加えて,3次元法の出現によって任意の視点やスライスでの画像構築が行われるようになり,子宮を描写するバリエーションが広がった.さらに,子宮腔内病変に対するソノヒステログラフィーは,病変と子宮腔の関係や血流像の局在を正確に捉えることを可能とし,診断精度を向上させると同時に,予後向上にも寄与する可能性がある.
■腫瘍性病変
超音波検査による子宮内膜癌の存在と浸潤度に関する診断精度は高いが,条件に依存する点やシークエンスが多様化した点でMRIに劣るとされている.しかし,超音波検査は外来において最初に行う画像診断であり,その必要性について異論はない.特に近年の超音波ドプラ診断装置の進歩は目覚ましく,ドプラ信号の検出・表示能力は飛躍的に向上し,さらに血流信号の3次元情報を定量化して評価する指標も出現したことから,今後の研究が期待される.
ここでは,子宮超音波検査の可能性と限界をテーマとして議論を行う為に,その潮流と焦点について総括的に紹介したい.