Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 消化器
ワークショップ 消化器 3 超音波所見と病理像の不一致例を見直す

(S358)

腫瘍被膜における超音波ビームの屈折:simulation analysisを中心に

Refraction of ultrasound beam at capsulated tumor : simulation analysis

宇野 篤1, 石田 秀明2

Atsushi UNO1, Hideaki ISHIDA2

1市立大森病院内科, 2秋田赤十字病院超音波センター

1Department of Internal Medicine, Omori Municipal Hospital, 2Center of Diagnostic Ultarasound, Akita Red Cross Hospital

キーワード :

【はじめに】
均一組織内に存在する腫瘤を観察する場合に腫瘤と周囲組織との境界で生じる屈折および反射のありさまと,それにより生じる像の歪みの一般的傾向についてcomputer simulationを用いて検討した結果を述べる.
【方法】
1)肝腫瘤後方に等間隔に仮想的膜様構造物を配置し,像の歪みの発生形態を検討する際の指標とした.2)肝〜肝腫瘤〜仮想膜様構造物と近傍の超音波伝搬経路を計算し超音波ビームの軌跡を表示した.3)腫瘤の構成として腫瘤辺縁部に被膜成分が存在する場合も考慮した.音速は肝:1540 m/s,腫瘤被膜部:1600 m/s,腫瘤内部:1480(嚢胞性腫瘤)〜1580(充実性腫瘤)m/sとした.4)超音波伝搬経路を元に,観察対象物が実際にはどのように装置に超音波画像として表示されるか計算.5)最後に,計算済みのビームの軌跡と装置に表示される対象物を重ね合わせて表示し像を解釈・検討した.
【結果】
1)腫瘤が被膜を有しない場合:a)腫瘤の音速が肝より遅い場合(例:嚢胞性病変)腫瘤後方で超音波ビームは腫瘤外側部から内側に向って収束する.b)腫瘤の音速が肝より速い場合(例:肝細胞癌)ビームは腫瘤を中心にして左右外側方向に広がるように屈折する.また腫瘤外側辺縁部にビームが浅い角度で入射した場合は腫瘤表面で全反射する.2)腫瘤に被膜が存在する場合:基本的に音速が遅い肝から音速が速い被膜に超音波ビームが入射する形になる.そのため腫瘤(被膜)の外側辺縁部を通過するビームは左右外側方向に急峻に屈折する.被膜以外の腫瘤の音速にかかわらず概ねこの傾向にあった.3)腫瘤後方像の歪み:腫瘤(被膜)外側部後方の領域で像は急峻に偏位し,表示上連続した帯状の断裂を認めた.4)像の偏位・断裂の程度は腫瘤の後側方ほど,被膜が厚いほど大きかった.被膜の厚みが不均一な場合,ビームの屈折様式の統一性に乱れが生じ,腫瘤後方の像はより複雑に偏位した.
【まとめ・考察】
腫瘤の存在によりビームが屈折することは不可避かつ肉眼には認識できない現象であり,その存在と特性を理解し適切に利用することが超音波画像診断上肝要である.ビームの屈折が非常に大きい場合は装置が得る情報が破綻し画像を表示すること自体が不可能となる.腫瘤後方に観察される外側音響陰影はこれらの機序で発生するartifactの一例と理解する.