Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 消化器
パネルディスカッション 消化器 2(一部英語) 脂肪肝の画像診断

(S329)

脂肪肝診断における超音波減衰の基礎知識と注意点

Basics and pitfalls of ultrasound diagnosis for fatty liver attenuation

神山 直久

Naohisa KAMIYAMA

GEヘルスケア超音波製品開発部

Ultrasound Division, GE Healthcare

キーワード :

【はじめに】
腹部超音波検診判定マニュアルにおける脂肪肝の所見としては,(1)高輝度肝,(2)肝腎コントラスト,(3)深部減衰,(4)脈管の不明瞭化,のいずれかを認めることである.いくつかの施設では,これら所見のスコア化を試み,経験的には有用な手法となっているが,より客観的な定量手法に関してはまだ確立されていない.今回は,脂肪肝の所見と超音波物理との関連および注意点を概説する.
【論旨】
肝細胞内の脂肪滴は,肝細胞を構成する他の物質より音速と密度が低いため,脂肪滴からの後方散乱(いわゆるエコー)は増大する.後方散乱強度と脂肪滴数は,大まかには比例関係と言えるが,脂肪滴が多くなると多重散乱も無視できなくなるため比例関係が保たれなくなる.定性的には脂肪滴の数が増加すれば「肝臓が高輝度」に見えるため,脂肪滴の増大が起こらない「腎臓との輝度差が大きく」なる.
ところで,超音波は生体内を伝搬する際,振動が摩擦熱に変換されたり,多重散乱により伝搬経路が長くなることでエネルギーを失う.これらが減衰の主な原因となり,脂肪滴が非常に多い状態では,「深部の実質や横隔膜が見えなくなるほどの減衰」が起こる.健常肝で視認できていた血管は,脂肪滴によるエコー信号によって覆われていくため,「細い血管から徐々に視認しにくく」なる.
「高輝度肝」については,装置のゲインを変えれば輝度が容易に変わることは初歩的な注意点であるが,プリセットで同じ条件を常に呼出せば十分運用可能である.ただし「自動ゲイン補正」に関する機能はOFFすることが必須である.信号の絶対値は,腹壁の厚さ等でも変化するため定量化にやや不向きである.
「肝腎コントラスト」は,腎臓の輝度で規格化することで,異なるゲイン値のばらつきを補正しようとするもので,認知工学的にはこのように参照信号があった方が,脂肪滴による肝臓の輝度変化を認識しやすいという利点がある.肝臓と腎臓の描出位置を統一すれば,肝腎の信号比は比較的定量性を持っていると言ってよい.
「深部減衰」は,近年の診断装置の感度が大幅に向上したため,視認できなくなったと言われる.しかし生体減衰は物理現象であり,言うまでもなく装置の進化で変わることはない(図).信号振幅値を肝臓の深さごとに解析することで,減衰定数を計測する報告は古くからあるが,当日は我々の検討の一部も紹介する[1]
[1]大栗他,音響学会AI2015-4-08(2015)