Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 消化器
シンポジウム 消化器 2(一部英語) 消化器領域におけるエラストグラフィーの最先端

(S313)

消化管疾患に対するエラストグラフィーの応用

Evaluation of elastoraphy for digestive disease

飯田 あい, 畠 二郎, 眞部 紀明, 今村 祐志, 河合 良介

Ai IIDA, Jiro HATA, Noriaki MANABE, Hirshi IMAMURA, Ryosuke KAWAI

川崎医科大学検査診断学

Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【目的】
消化管疾患においても硬さの評価は診断に有用な情報である.例えば,癌と悪性リンパ腫(以下ML)の鑑別はしばしば困難であるが,癌とMLでは硬さが異なると報告されており,エラストグラフィーが鑑別に有用であると考えられる.また,炎症性腸疾患では,クローン病の狭窄性病変は線維性狭窄と炎症性狭窄があり治療方針が異なるが,その鑑別は困難であり,硬さの情報を得ることで鑑別に有用である可能性がある.
エラストグラフィーは消化管疾患の鑑別,およびクローン病の繊維性狭窄と炎症性狭窄の鑑別に有用であると仮定し,その有用性を検討した.
【対象】
川崎医科大学附属病院で2009年8月1日から2013年3月31日まで,消化管の癌,悪性リンパ腫,クローン病に対しエラストグラフィーを行った151名を対象とした.検査後の確定診断は,生検を含む病理学検査,クローン病に関しては臨床経過を参照した.本研究は,倫理委員会の承認を得て行っている.
【方法】
USの施行は熟練した超音波専門医3名,超音波検査に従事する医師2名,超音波検査技師4名が行った.検査施行時にstrain比を計算していなかった症例は,後日Raw dataによる解析を行った.その解析は超音波検査に従事する医師1名が行った.後ろ向き研究である.
・エラストグラフィーの方法
使用機種は東芝社製SSA 790A,TUS A500.エラストグラフィーはStrain法を用いた.全例特殊な前処置は施行しなかった.病変が明瞭に描出される部位で呼吸を停止し,病変直上においてプローブで用手圧迫を行った.Focusは病変に合わせた.圧迫回数は4−5回,圧迫の強さは約1cm腹壁がしずむほど.病変と近接する正常壁それぞれにROIを設定した.Raw data解析では,病変部位では極力病変を含有するように設定した.また,ROIの深さは可能な限り正常壁と病変部を一定にした.用手圧迫によりデータを算出し,2回以上strain比を求めたものはその平均をその患者のstrain比とした.
【結果】
各種疾患症例の内訳は,胃癌49例,大腸癌57例,十二指腸癌2例,胃悪性リンパ腫4例,十二指腸悪性リンパ腫2例,小腸悪性リンパ腫11例,クローン病25例(手術または内視鏡的拡張術施行した狭窄症例5例,外科的治療を必要としない病変20例).各種疾患におけるストレイン比は,胃癌(15.13±18.33,mean±SD),大腸癌(12.38±12.65),十二指腸癌(16.31±16.02),胃ML(3.47±1.36),十二指腸ML(2.68±0.25),小腸ML(9.45±10.74)クローン病繊維狭窄群(12.66±8.64) クローン病炎症性狭窄群(5.92±5.54) であった.ノンパラメトリック検定を用いて,2群間の比較をすると,胃癌と胃MLの差p=0.010,クローン病の治療(拡張術,切除)の必要症例と保存的治療可能症例ではp=0.043であり,有意差を認めた.胃癌と胃MLのストレイン比の閾値は5.04であり,特異度100%,感度83%であった.クローン病の治療(拡張術,切除)の必要症例と保存的治療可能症例では閾値5.79,特異度100%,感度68.4%であった.
【考察】
本研究では,超音波エラストグラフィーを用いてstrain比を算出することにより,消化管癌と悪性リンパ腫,クローン病の保存治療群と治療必要な狭窄群(線維性狭窄)の間に有意な差を認めた.癌,クローン病の線維性狭窄症例など線維化を多く含む病変は硬く描出された.今後,超音波エラストグラフィーを用いることで,疾患の鑑別の一助になると考えられた.