Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 循環器
パネルディスカッション 循環器 3 高齢者・超高齢者における心エコー検査

(S282)

左室拡張機能の年齢による推移とHFpEF

Changes in Left Ventricular Diastolic Function across the Ages and Heart Failure with Preserved Ejection Fraction

山田 聡

Satoshi YAMADA

北海道大学大学院循環病態内科学

Department of Cardiovascular Medicine, Hokkaido University Graduate School of Medicine

キーワード :

心不全が左室駆出率(LVEF)の低下した症例のみならずLVEFの保たれた症例にも生じ,後者の占める割合は約40%と高く,両疾患群の予後にはさほど差がないことが明らかになって久しい.そこで,臨床的な切り口として,心不全をLVEFの低下した心不全(HFrEF)とLVEFの保たれた心不全(HFpEF)に分類して,診断と治療が検討されるようになった.HFrEFと比較して,HFpEFには,高齢患者や女性に多く,高血圧や心房細動の合併率が高い等の特徴がある.したがって,HFpEFは社会の高齢化が加速するほど増加すると予測され,高齢化社会に特有の問題のひとつと考えることができる.
心不全が疑われる患者に対する広義の左室機能評価は,収縮機能評価と拡張機能評価に大別される.しかし,それ以上に,評価の目的として固有の左室機能を知りたいのか,それとも血行動態を知りたいのかを明瞭にして結果を解釈することが重要である.血行動態は,通常,血流量と圧の情報からなる.固有の収縮機能を仮にLVEFで推定するならば,それに対応する血行動態指標は1回拍出量(SV)であり,両者は必ずしも一致しない.左室拡大を伴う慢性のHFrEFでは,しばしば,LVEFが低下していてもSVは正常に保たれる.逆に,大動脈弁狭窄の症例にみられるように,LVEFが保たれていても求心性左室肥大などのためにSVが低下することもある.一方,固有の左室拡張機能の二大要素は弛緩能と左室腔の硬さ(chamber stiffness)であり,それぞれに(不完全ではあるが)侵襲的方法によるスタンダードの指標がある.弛緩能のスタンダードである時定数τと(疎に)相関する心エコー指標はいくつか報告されているが,心エコー法でchamber stiffnessを推定するのはほぼ不可能である.これらの拡張機能に対応する血行動態の理解には,一般に若干の混乱がみられる.前述の拡張機能の二大要素が障害されていることを前提として,これに前負荷の増大などが加わると左室充満圧(平均左房圧)が上昇し,肺うっ血をきたす.そして,この血行動態としての左室充満圧と(疎ではあるが)相関する心エコー指標を用いて,心不全の状態を鋭敏に評価することができると考えられている.問題は,「固有のchamber stiffness」と検査時の容量負荷の状況における「左室充満に対する左室圧上昇の度合い」がしばしば混同される点にある.後者は,「検査時の作動点における」という意味で,operative stiffnessと呼ばれる.Chamber stiffnessとoperative stiffnessは異なり,operative stiffnessは血行動態指標であるがゆえに,容量負荷が軽減すれば改善する.心不全状態におけるE波減速時間の短期間での変化は,このoperative stiffnessの変化を反映するものであり,これをもって固有の拡張機能の一要素であるchamber stiffnessの変化と考えるのは誤解である.
本講演では,HFpEFを含めた心不全診療に,心エコー法による左室拡張機能評価や左室充満圧の推定が必要か否かを,症例を交えて議論する.また,高齢者における左室拡張機能評価の特殊性を明らかにし,高齢者・超高齢者での心エコー診断のtipsを提示したい.