Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 循環器
パネルディスカッション 循環器 3 高齢者・超高齢者における心エコー検査

(S281)

高齢者の求心性左室リモデリングと左室流出路狭窄

Concentric left ventricular remodeling and outflow tract obstruction in the elderly

石津 智子1, 瀬尾 由広2, 山本 昌良2, 町野 智子2, 濱田 佳江2

Tomoko ISHIZU1, Yoshihiro SEO2, Masayoshi YAMAMOTO2, Tomoko MACHINO-OHTSUKA2, Yoshie HAMADA-HARIMURA2

1筑波大学臨床検査医学, 2筑波大学循環器内科

1Department of Clinical Laboratory Medicine, University of Tsukuba, 2Cardiovascular Division, University of Tsukuba

キーワード :

加齢による求心性左室リモデリングの主な要因は,血管の硬化と血圧の上昇に対する代償機転であると考えられてきた.一方,近年の基礎的研究では左室後負荷とは無関係の老化による神経体液性因子の変化による心肥大が注目されている.この加齢性心肥大は血圧とは無関係で,かつ予後規定因子でもある.老年マウスの心肥大が,若年マウスと血液循環を共有する手術により著明に改善することを示した実験(Loffredo, Cell 2013)から,いわゆる“ドラキュラ”効果を持つ物質の解明が進み,現在ではおおよそ10種類程度まで絞り込まれてきた.GDF 11(Growth differentiation factor 11)はその最有力候補のうちの一つ(Olson, EHJ 2015)で,心臓の若さを保つ重要な担い手と考えられている.GDF11は加齢とともに減少し,その血中濃度が高いほど,心肥大は軽度であることが報告された(N Eng J Med 2004).またGDF11の阻害作用を持つFSTL3(Follistatin like 3 protein)は加齢とともに増加し,加齢に伴う腎機能障害と関連するという.
これまでは,加齢に伴う血管の硬化は進行してから介入しても既に不可逆であることから,診断学としての加齢心は注目されてこなかった.しかし上記のような心筋の若返り治療の糸口が見えてきた昨今では,治療的介入を見据えた精密なエコー診断が求められる.
高齢者に見られる心肥大はびまん性の求心性左室リモデリングに加え,sigmoid septum, discrete upper septal hypertrophy, upper septal‘knuckle’あるいは最近では特発性基部中隔肥大isolated BSH(basal septal hypertrophy)と様々な名称で呼ばれる特徴ある心形態も含む.心エコーを行う者なら誰でも見たことのある所見であるが,その原因,病態生理,臨床的意義などには未だ不明な点が多い.心室中隔基部が部分的に肥厚する機序として,中隔基部の超軸方向の曲率が小さく壁応力が強い,他の部位よりも電気的興奮伝播が遅い,右室からのストレスを受ける,動脈長の延長により左室基部中隔が折れ曲がるなどが考えられている.動物実験,ヒトのMRIによる観察でも左室後負荷上昇に対する心肥大は中隔基部に最も早く表れるという.基部中隔肥大に伴う左室流出路狭窄は特に運動負荷中に出現・増悪し,運動耐容能低下の一因となる.さらに最近では,左室全体の肥大がなく基部中隔肥大のみであっても運動中の左室拡張末期容積増大がない硬い心臓であるという指摘もある.いわゆる左室駆出率の保たれた心不全を呈する一つの群として,加齢心が分類されるが,その病態の中核には基部中隔肥大,運動時左室流出路狭窄があるかもしれない.本パネルディスカッションでは,文献レビューに加え,当研究室の高血圧性心不全モデルラット実験,および非代償性心不全登録研究における加齢性心肥大の病態診断とその意義について紹介したい.