Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 循環器
シンポジウム 循環器 4 心機能評価の新たな展開

(S266)

Non-invasive Single-beat法を用いた心室血管連関の定量的評価とその臨床応用

Clinical Application of Quantitative Assessment of Ventriculo-arterial Coupling by Using Non-invasive Single-beat Method

松本 賢亮

Kensuke MATSUMOTO

神戸大学医学部循環器内科

Department of Internal Medicine Division of Cardiovascular and Respiratory Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

【背景】
1970年代にSugaやSagawaらにより左室収縮末期エラスタンス(Ees)の概念が提唱され,さらにSunagawaらにより実効動脈エラスタンス(Ea)の概念が確立されたことにより,心室血管連関(VA coupling)の枠組みが完成した.Eesは負荷条件に依存しない左室固有の収縮性を反映する理想的な左室機能の指標であるものの,測定における侵襲性や下大静脈閉塞バルーンを用いた複数の圧容量曲線測定が必要であるなど,その煩雑性のために広く日常臨床に応用されることはなかった.このような問題点を解決すべく,負荷条件を変えずに単一心拍でEesを推定する方法が考案され,さらに近年完全に非侵襲的に心エコー図検査により得られる計測値のみを用い,Eesを推定する手法が報告された(non-invasive single-beat法).
【方法】
今回の検討では,89名の拡張型心筋症患者(平均左室駆出率32±10%)と年齢および性別をマッチさせた30名の正常者を対象とし,三次元心エコー図を用いて,Ees,Ea,およびVA couplingを比較検討した.Eesはsingle-beat法を用いて,Eaは左室収縮末期圧を一回拍出量で除すことによりそれぞれ算出し,VA couplingはEa/Ees比によって求めた.また,拡張型心筋症患者に対しては,低用量ドブタミン投与下(20μg/kg/min)におにおけるそれぞれの指標の変化を測定し,長期予後との関係を検討した.
【結果】
拡張型心筋症患者ではEa/Ees比が正常対象者と比較して有意に大きく(2.49±1.02 vs. 1.04±0.21,p<0.001),低下した左室収縮性に対して不釣り合いに大きな後負荷とcouplingしていることが示された.心血管事故を心不全死,心臓突然死および心不全に基づく入院による複合エンドポイントと定義すると,32ヶ月間の観察期間中22名の拡張型心筋症患者において心血管事故が発生した.心血管事故が見られなかった群では,ドブタミン投与によりEa/Ees比が有意に改善したのに対し(2.47±1.09 to 1.59±0.68,p<0.001),心血管事故が発生した群では有意な変化は認められなかった.Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析では,性別,NYHA機能分類(>Ⅱ)に加え,ドブタミン投与によるEa/Ees比の改善度が独立した予後規定因子となることがわかった(それぞれp<0.05,<0.01,および<0.001).ドブタミン投与下のEa/Ees比の改善度に基づき患者群を2群に分けると,Ea/Eesの改善度が大きい群は他群に比べ,明らかに良好な予後を示した.
【結論】
ドブタミン負荷によるEa/Ees比の改善が拡張型心筋症患者の予後予測に有用であることがわかった.本セッションでは,三次元心エコー図法を併用したnon-invasive single-beat法によるEes,Ea,およびVA couplingの定量的評価法と,その日常臨床への応用可能性につき概説する.