Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 循環器
シンポジウム 循環器 3 重症心不全と僧帽弁逆流

(S263)

心エコーでみる非侵襲的陽圧換気療法の功罪

Merits and demerits of non-invasive positive airway pressure therapy: demonstration by echocardiography

春木 伸彦

Nobuhiko HARUKI

産業医科大学若松病院循環器内科・腎臓内科

Department of Cardiology and Nephrology, Wakamatsu Hospital of the University of Occupational and Environmental Health

キーワード :

収縮能低下を伴う左室拡大例に多く認められる機能性僧帽弁逆流(FMR)は,心不全の独立した予後規定因子である.近年このような症例に対する外科的手術や心臓再同期療法,カテーテルインターベンションなどの非薬物療法は目覚ましい進歩を遂げている.しかし,これらの治療は少なからず侵襲があり,必ずしもすべての症例が良い適応になるとは限らない.
非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)もまた,心不全に対する新たな非薬物療法の一つとしてその有用性が期待されている.元来,NPPVは睡眠時無呼吸の治療機器として広く使用されてきたが,一方でNPPV自体の胸腔内圧上昇作用による左室前負荷・後負荷の軽減効果のほか,呼吸安定化による交感神経活性の抑制効果が期待でき,我が国を中心に,心不全の循環呼吸補助デバイスという使用法が確立しつつあった.NPPVは持続的陽圧換気(CPAP)であっても二相性陽圧換気(BIPAP)でも,30分間の短時間使用で,左室駆出率(LVEF)を増加させ,FMRを減少させることが報告されている.また我々は,心不全患者においてBIPAPの一つであるAdaptive servo-ventilation(ASV)を用いて30分間の血行動態,心機能に及ぼす急性効果を検討したところ,ASVによって左室一回拍出量(SV)や心拍出量(CO)が有意に増加し,その増加の程度は,ASV導入前のE/e’値やFMRの重症度と有意な相関を認めた.
一方で,NPPVを心不全患者に対して長期的に使用し,睡眠時無呼吸を効果的に治療することで心事故の抑制につながることが多くの臨床研究で実証されている.さらにNPPV自体の心臓に対する直接的な減負荷作用,交感神経活性の抑制効果によって慢性期のLVEFを増加させ心血管イベントを抑制することが,最近ASVを用いた研究で多く示された.我々も,心不全患者におけるNPPV(ASV)の慢性効果を検討し,6ヶ月間のASV療法がLVEFを増加させ,左室・左房容積やFMRを減少させることを示した.しかし,心不全患者であっても肺動脈楔入圧(PCWP)が高くない症例では,NPPVによる胸腔内圧陽圧化がかえってSVやCOを低下させ,血行動態や心機能に悪影響を及ぼすことが示唆されており,NPPVによって供給される気道内圧の程度によっても反応性が大きく異なる可能性がある.さらに心不全患者に対するCPAPやASVの多施設ランダム化比較試験では,未だその長期的な効果が実証されていないことも問題点の一つである.今後,心不全患者に対してNPPV療法を導入する際には,どのような症例で効果的か,どんな場合はむしろ悪影響が出るかというNPPV療法の功と罪を事前に見極めることが求められ,導入前の心エコーによる心臓形態や心機能・FMRの評価はその一助になりうると考える.