Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 基礎
ワークショップ 基礎 組織の粘弾性の定量化はどこまで可能か?

(S248)

高脂血症患者の投薬に伴う頸動脈弾性率の遷移

Transient response of arterial wall elasticity of a hyperlipidemia patient to dose of Statin

金井 浩1, 長谷川 英之2, 山岸 俊夫3

Hiroshi KANAI1, Hideyuki HASEGAWA2, Toshio YAMAGISHI3

1東北大学大学院工学研究科電子工学専攻, 2富山大学大学院理工学研究部, 3東北公済病院内科

1Dept of Electronic Eng., Graduate School of Eng., Tohoku University, 2Graduate School of Science and Engineering for Research, University of Toyama, 3Department of Internal Medicine, Tohoku Kosai Hospital

キーワード :

【はじめに】
位相差トラッキング法[1]は,通常用いられる縦波超音波を,通常の画像表示のためではなく,生体内の組織や臓器の微小速度を時間波形として高精度に計測することに活用されている.さらに1本の超音波ビーム上に設定した2点で速度波形を同時計測し,それらの波形の空間的な差を時間積分することで2点間に生じる厚み変化の高精度計測も可能となった[2].この手法を動脈壁に適用し,脈圧と1拍間での血圧上昇に伴い血管壁が数十ミクロン薄くなる厚み変化から,動脈壁の弾性特性を非侵襲的に評価できる[3].本報告では,この手法を,高脂血症患者のフルバスタチンナトリウム投薬に伴う頸動脈の健常部と粥腫病変部に適用し,各々の壁の弾性率とコレステロール等の遷移を7年間にわたり継続的に計測した結果を示す.
【方法】
本研究グループは,頸動脈壁の弾性特性を計測するために,心臓1拍内の動脈壁の微小変形量を測定できる手法を開発した[2].動脈壁は心拍動に伴う血圧変化によりその厚みを1心周期内で数十ミクロン変化させている.この変形量は動脈壁の弾性特性(硬さ)を反映しており,硬い血管では厚み変化(変形量)が小さく,軟らかい血管では大きい.この1心周期内の厚み変化を計測できれば動脈壁の弾性特性を評価できる.しかし,従来の超音波断層像は受信超音波信号の振幅のみから構築されているため空間分解能は0.1 mm程度であり,このように微小な変形を計測することはできない.本研究グループでは,受信超音波信号の振幅だけではなく,直交検波波形の位相にも着目することにより,この微小な厚み変化の高精度計測を可能としている.また,動脈壁の変形を生じさせる外力である,血圧を考慮することで動脈壁の弾性特性を評価することが可能である.
高脂血症患者1名を対象に,血液検査を月1回実施し,血中コレステロール値(LDL, HDL,総コレステロール,中性脂肪)を求めた.また,通常の超音波エコー装置(7.5MHz)をもとに,上記位相差トラッキング法[2]を適用し,総頸動脈の健常部と頸動脈分岐部の粥腫病変部における弾性率分布を1週間に1回の割合で計測した.1ビーム上で約375ミクロン間隔に弾性率を計測し,血管壁の長軸方向にも超音波ビームを約20mmの範囲で走査することで弾性率分布を求め,それらを空間平均して平均弾性率を算出した.
【結果】
健常部の弾性率に関しては,スタチン投与1月後から約3ヵ月間,LDLコレステロールが低下し弾性率も約20%低下したが,その後,7年間にわたりLDLコレステロールと弾性率が徐々に上昇している(LDLコレステロールが年+4 mg/dl,弾性率が年+8 kPaの割合で増加).
一方,頸動脈分岐部の粥腫病変部においては,スタチン投与後に,健常部よりも約10倍急激に選択的に硬くなった(弾性率が年+80 kPaの割合で増加).
【結論】
スタチン投与は,粥腫病変部の安定化に貢献し,心血管イベント発症の抑制効果があることが示唆される.
【参考文献】
[1]H. Kanai, M. Sato, Y. Koiwa, N. Chubachi, IEEE Trans on UFFC, 1996;43:791-810.
[2]H. Kanai, H. Hasegawa, N. Chubachi, Y. Koiwa, M. Tanaka, IEEE Trans on UFFC, 1997;44:752-768.
[3]H. Kanai, H. Hasegawa, M. Ichiki, F. Tezuka, Y. Koiwa: Circulation 2003;107:3018-3021.