Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 基礎
ワークショップ 基礎 組織の粘弾性の定量化はどこまで可能か?

(S247)

摘出検体から測定した乳房内組織の弾性係数とエラストグラフィ所見との対比

Elastic moduli of breast tissue in comparison with US Elastography findings

梅本 剛1, 2, 松村 剛3, 藤原 洋子3, 坂東 裕子4, 東野 英利子1, 5, 山川 誠6, 椎名 毅6, 戸井 雅和6, 植野 映1, 5

Takeshi UMEMOTO1, 2, Takeshi MATSUMURA3, Yoko FUJIHARA3, Hiroko BANDO4, Eriko TOHNO1, 5, Makoto YAMAKAWA6, Tsuyoshi SHIINA6, Masakazu TOI6, Ei UENO1, 5

1つくば国際ブレストクリニック, 2筑波大学附属病院乳腺甲状腺内分泌外科, 3日立アロカメディカル株式会社第二メディカルシステム技術本部, 4筑波大学大学院人間総合科学研究科, 5(公財)筑波メディカルセンター, 6京都大学大学院医学研究科

1Tsukuba International Breast Clinic, 2Department of Breast and Endocrine Surgery, Tsukuba University Hospital, 3Medical Systems Engineering Division 2, Hitachi Aloka Medical, Ltd., 4Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, 5Tsukuba Medical Center Foundation, 6Graduate School of Medicine, University of Kyoto

キーワード :

【背景】
Real-time Tissue Elastography(以下エラストグラフィ)をはじめ,各社からさまざまな様式の組織弾性イメージングが提案され,日常臨床にて「硬さ」という質的特性を簡便かつ非侵襲的に得ることが可能となり,今日ではその有用性に関する報告も多くみられる一方,以前より初期圧((pre-load compressoin)依存性や定量性といった課題も指摘されている.これらの課題の克服ならびに粘弾性特性を用いた診断のためには,まずは生体組織がもつ弾性特性についての理解が重要であり,その基礎的な知見を得るため,われわれは摘出直後の手術検体を用いて乳房内各組織の弾性係数(ヤング率)を測定し,術前エラストグラフィ所見と対比する検討を行った.
【対象】
術前に文書を用いて承諾を得たのちに,手術検体を用いて弾性係数測定を行なった30例(平均年齢:56.8歳,男性/女性:1/29,閉経前/後:14/15)にて,正常組織(脂肪,乳腺)および乳腺腫瘤33病変(乳頭腫/非浸潤癌/浸潤癌:3/8/22)の弾性特性の解析を行った.
【方法】
摘出直後(ホルマリン固定前)の手術検体から,対象病変および周囲の正常組織を約5mm厚にスライスした標本を作成した.専用の硬さ測定機(インストロン社3342型)を用いて,体温条件を想定した温度管理および一定の初期応力のもと,毎分1mmの速度で標本に圧を加え,圧縮歪み30%まで対象病変および周囲正常組織の弾性係数(ヤング率)を測定した.組織変性による測定や病理組織診断への影響を最小限とするため,測定は手術検体摘出後2時間以内に終了した.測定により得られた弾性係数,術前に記録したエラストグラフィ所見と病理組織所見との対比を行った.
【結果】
「適切なエラストグラフィ検査手技」に相当する初期応力条件下(0.2- 0.4kPa)では,脂肪/非浸潤癌/浸潤癌の弾性係数は2.60/6.52/ 16.08kPaであり,これに対して「初期圧過剰なエラストグラフィ検査手技」に相当する初期応力条件下(1.0-1.2 kPa)では,同19.08/16.15/30.50kPaであった.応力条件の変化に伴う正常組織と病変部との組織弾性の非線形性は異なり,1kPa前後の応力条件においても弾性係数の大小の差(あるいは比)の関係に変化や逆転が生じることが確認された.
【まとめ】
手術検体を用いた弾性係数測定の結果から,軽微な応力条件下における各組織の非線形性の違いが示され,このことが超音波組織弾性イメージングの様式を問わず,エラストグラフィ検査の手技の違いによる弾性像の画質の変化に密接に関わることが示された.
【文献】
T.Umemoto, Ei Ueno et.al. Ultrasound in Med. & Biol., Vol. 40, No. 8, pp. 1755-1768, 2014