Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
パネルディスカッション 領域横断 2 脳神経領域における超音波の使い方

(S206)

TCDと頸部貼付型プローブによる微小栓子シグナル検出の心臓血管外科とTAVIへの応用

HITS by TCD or paste type carotid HITS detector for Cardiovascular Surgery and TAVI

榛沢 和彦

Kazuhiro HANZAWA

新潟大学医歯学系呼吸循環外科

Thoracic and Cardiovascular Surgery, Niigata University Graduate School of Medicine

キーワード :

人工心肺(CPB)を用いた心臓血管外科手術,大口径カテーテルを用いた大動脈ステントグラフト術および経カテーテル大動脈弁植え込み術(trans-catheter aortic valve implantation / replacement;TAVI)などの術後に問題となる一番の合併症は脳梗塞であり,その多くは塞栓症である.開心術では粥腫や石灰化のある大動脈,CPBなどが塞栓源になり得える.またCPBには気泡が混入することもある.大動脈ステントグラフト術やTAVIにおいても太いカテーテルが大動脈の粥腫や石灰化を飛散させる可能性があり,カテーテルから気泡が混入することもあり得る.一般に少量の微小気泡(MB)が脳動脈に混入しても脳障害を起こすことはないと信じられているが,どれくらいの大きさの気泡が,どれくらいの量で脳障害を引き起こすかは不明である.特に脳高次機能障害を生じさせる微小気泡の量についてはまったくわかっていない.しかしMB(100μm以下)は脳細動脈を閉塞しないが,これらは血管内に長く留まりあたかも固形栓子のように振る舞い血管内皮に衝突し,その際にcavitationによる発熱などで血管内皮を損傷することが判明している.したがってMBでも一定量を超えると脳障害を引き起こすことは自明である.1990年にスペンサーらは2MHzパルスドプラによる経頭蓋超音波(TCD)で脳動脈を流れる固形の栓子がピュッという音すなわちHigh Intensity Transient Signals(HITS)として検出できることを報告した(現在では頸動脈高度狭窄,脳梗塞患者などでHITSが30分間に2個以上検出されると脳梗塞(再発)発症の危険が高いことが知られている).HITSはオースチンらが1980年にCPBのMBで検出を報告したものであり心臓血管外科と関連が深い.我々は人工心肺を使用した場合で弓部大動脈瘤置換術,弁置換術,冠動脈バイパス術の順でHITSが多いことを報告しているが,術後脳障害もこの順で多い.また術後せん妄や意識障害の遷延は術中のHITS検出数が8000個を超えると多いことを報告している.術中のHITSは大動脈遮断,人工心肺操作,大動脈遮断解除,心拍動再開時に多い.我々は動物実験結果からHITS周波数の高低でMBによるHITSと固形の栓子によるHITSのおよその区別が可能であることを報告した.それを用いると大動脈の遮断及び遮断解除では固形の栓子が多くその他はMBが多かった.また人工心肺回路の種類によってHITSの多少に差がある.さらに人工心肺操作で薬物や輸液追加を行う場合に粗雑に行うとHITS数が増加する.また左房ベントや大動脈ベントを適切に行うことでHITSは減少させることが可能である.このようにCPBを用いた開心術においてHITSをモニタリングすることでより安全な手術が可能になるものと考えられた.しかしながら高齢日本人では頭蓋骨が厚くTCDが施行困難な場合が少なくない.そこで頸部にプローブを貼り付けて頸動脈でHITSをモニタリングできる装置が開発された.これを用いることにより100%術中モニタリングが可能である.そこで超高齢者が多いTAVIにおいて頸動脈HITS検出装置を用いたモニタリングを行い,HITS周波数分析を行ったところ大部分はMBであったが固形のHITSも検出された.一方頸動脈HITS検出装置ではプローブから近い場所でHITSを検出できるように設計されたことからTCDよりも微小な血栓や血栓前状態が検出できる可能性がある.我々は新潟県内で毎年行っている震災被災地住民のDVT検診において頸動脈HITS検出装置によるHITS検出を行ったところDVT保有者で有意に多く音の無い小さなシグナル(weak-HITS)が検出された.また現在イタリアのラクイラ大学で循環器疾患患者のweak -HITSについて共同研究中である.