Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
パネルディスカッション 領域横断 1(一部英語) Point of care超音波検査

(S203)

循環器系のpoint-of-care超音波−超音波専門医の視点から

Point-of-Care Ultrasound Examination in Cardiology

山田 博胤1, 2, 楠瀬 賢也1, 西條 良仁1, 瀬野 弘光1, 佐田 政隆1, 2

Hirotsugu YAMADA1, 2, Kenya KUSUNOSE1, Yoshihito SAIJO1, Hiromitsu SENO1, Masataka SATA1, 2

1徳島大学病院循環器内科, 2徳島大学病院超音波センター

1Cardiovascular Medicine, Tokushima University Hospital, 2Ultrasound Examination Center, Tokushima University Hospital

キーワード :

超音波診断装置の高性能化,小型化,バッテリー駆動化などの恩恵で,救急はもちろん,病棟,外来,診療所,在宅...と心エコー検査が活躍する場が飛躍的に拡大した.<心エコー検査は,聴診器を用いた診察では得ることができない多くの情報を提供する.例えば,心腔のサイズ,心肥大の有無,左室収縮能,心筋梗塞の局所壁運動異常,弁逆流,弁狭窄,心奇形,心膜液貯留,心臓腫瘍など,数分以内の検査で多くの情報を得ることができ,それだけで確定診断に至って治療方針が決定することも少なくない.POCエコー検査が検査室で行うエコー検査と大きく異なるのは,短時間で,知りたい情報のみを得るという点である.
外傷時のPOCエコー検査としてFASTが普及しているが,非外傷性ショック時のPOCエコー検査ではRUSH examがある.RUSH examでは,①ポンプ(心機能,閉塞性ショック),②タンク(循環血液量),③パイプ(大血管,血管抵抗)の3つの要因をエコー検査でチェックすることにより,ショックの鑑別診断をしようというものである.ポンプでは,心膜液貯留,左室収縮能,右室負荷についての評価を行う.タンクは,下大静脈の情報からタンク容量を評価,FASTと肺エコーでタンクのリーク,緊張性気胸を判断する.パイプは,大動脈瘤,大動脈解離,そして,深部静脈血栓症まで評価を行う.血圧=心拍出量×血管抵抗の原則に則り,これらのエコー所見から閉塞性ショック,心原性ショック,hypovolemicショックを評価し,それらが否定できれば血流分布異常ショックと考える.
胸痛の鑑別診断にもPOCエコー検査が有用である.EASY echoでは,Effusion,Aorta,Size&Shape,ASYnergyの評価によって,致死的疾患である心タンポナーデ,大動脈解離,肺血栓塞栓症,急性冠症候群の鑑別診断を行う.
さらに,心不全の診断,病態把握にもPOCエコー検査が活用できる.心不全の診断に際しては,①下大静脈,②左室収縮能,形態,③肺高血圧,④弁膜症,⑤左室拡張能,の5つのステップで評価を行えばよい.経過観察時の評価に際しても,これらのうちで異常を認めた指標の変化を追うことで治療効果判定や病態把握が可能である.
このようにPOCエコー検査は,循環器分野においてもその臨床的有用性は大きい.しかし,心エコー検査だけでも習熟に時間を要するのに,血管エコー検査や肺エコー検査まで加わってくると,超音波検査を専門としない医師にとってはかなりハードルが上がる.実際,医師の技術により評価に差も出てしまう.これら基本的な超音波検査手技を初期研修医の必須修得項目にしたり,このようなエコー検査を習得する勉強会やハンズオンセミナーの開催するなど,医師がこれまでの聴診器と同じように超音波診断装置を使いこなす技術を身につけることができる環境を作っていく必要がある.