Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
パネルディスカッション 領域横断 1(一部英語) Point of care超音波検査

(S201)

消化器系のpoint-of-care超音波−ベッドサイドで利用する臨床医の視点から

The use of point-of-care ultrasound for acute abdomen, especially in the emergency setting

小縣 正明

Masaaki OGATA

地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター西市民病院救急総合診療部・外科

Emergency Medicine, Kobe City Medical Center West Hospital

キーワード :

超音波検査は非侵襲性に加えて患者のベッドサイドでも迅速・簡便に活用できる画像診断法として,1980年代以降日本では臨床医に身近で重要な検査法になり,腹部救急診療に関わる内科医や外科医の多くが活用してきました.一方,2000年代に入り,MDCTの普及は短時間の検査で腹部全体の撮像を可能にし,解像度の向上と共に3次元的な画像の構築も可能にしました.また,造影CTは血管病変や臓器・組織の血流の病態把握に格段の進歩をもたらしました.これに対して,超音波診断装置にもPower Doppler・Harmonic Imaging・超音波用造影剤などの診断技術の進歩がありましたが,腹部救急診療の現場に飛躍的な変化をもたらしたとは言えません.しかし,超音波診断装置の進歩と小型化は臨床における超音波検査の活用の場を検査室から,救急やクリティカルケアの現場,麻酔・産科・整形外科などの診療現場に広げるとともに,活用の輪をParamedicsやNurseなど臨床医以外にも広げています.近年,Point-of-Care Ultrasoundという概念が逆輸入されており,今改めて超音波検査を専門としない臨床医の視点から腹部救急領域における超音波検査の活用と課題について報告します.
腹部外傷の初期対応に関して,日本ではperitoneal lavageではなく超音波検査を活用し,緊急手術やCT検査・IVRにつなげてきた歴史があり,Focused Assessment with Sonography for Trauma(FAST)で対象となる腹腔内貯留液の描出精度の高さを示す報告は数多く,臨床現場に定着しています.この点は超音波検査を専門としない救急医によるFASTの診断精度の高さを肯定するものです.また,急性腹症の初期診断法に関しても,日本では当初より一般臨床医が超音波検査を活用しており,欧州超音波医学会(EFSUMB)が示すminimum training recommendationsの中のLevel 1 competencyに含まれる腹部大動脈瘤,胆道系(胆石・胆嚢炎,胆管拡張),尿路系(腎盂・尿管拡張),腸管拡張などの描出は,超音波検査を専門としない救急医や一般医にも可能であり,その精度は高いと言えます.当院では,これらは初期研修医が習得すべき項目として,腹部救急診療における初期スクリーニング項目に位置付けています.一方,消化管穿孔でのfree air・急性虫垂炎での虫垂・大腸憩室炎での憩室の描出,腸閉塞の原因や病型診断などは,より多くの超音波検査の経験が求められるLevel 2 competencyに相当し,超音波検査を専門としない救急医や一般臨床医による診断精度はあまり高くありません.特に,血管病変の評価・診断は専門性の求められる領域と言えます.
以上のような現状を踏まえた上で,超音波検査の特長であるportabilityが具現化された現在,ベッドサイドで患者の訴えを聞き,身体に触れながら行う超音波検査の有用性を再認識し,その長所を生かすことで,救急医や一般臨床医の総合的診断能力は向上すると期待されます.また今後,改めて日本からPoint-of-Care Ultrasoundに関する研究成果の発信が求められます.
【参考文献】
Ogata M:General Surgery Applications. In: Ma OJ, Mateer JR, Reardon RF, Joing SA, eds. Emergency Ultrasound(3rd edition). McGraw Hill 2014,p273-317