Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 健診
健診 

(S705)

腹部超音波検診判定マニュアル導入の壁(腹部スクリーニング標準化を考える)

Afferent barrier of US mass screening manual

村上 和広

Kazuhiro MURAKAMI

小豆嶋胃腸科内科クリニック腹部超音波室

Division of Ultrasound, Shouzushima Gastrointestinal Clinic

キーワード :

2014年に日本消化器がん検診学会,日本人間ドック学会,日本超音波医学会の三学会共通の腹部超音波検診判定マニュアル(以下判定マニュアルと略)が発表され現在に至っている.判定マニュアルのうち,カテゴリー分類や判定区分については,本学会をはじめとした各学会でも熱心に討論され,パブリックコメントを募集した後に現行のものがリリースされた経緯がある.この判定マニュアルの導入を躊躇っている施設があるとすれば,その原因はどこにあるのか,導入の壁となっているものは何なのかについて,カテゴリー分類や判定基準とは異なった視点,即ち,「実施基準:超音波スクリーニングの標準化」の項から検討を試みたので報告する.なお,カテゴリー分類や判定区分に関しての検討は他の演者に委ね,今回は敢えて触れないこととした.
【判定マニュアル策定の狙いは?】
緒言には「腹部超音波検診の検査法の質的向上と均質化および,がんに対する判定基準の共通化を諮り,将来的には腹部超音波検診のがん検診としての精度評価ならびに有効性評価を行うことを目指したい」と唱っている.即ち,判定マニュアルは腹部超音波検診の「がん検診」としての有効性評価のために策定されたものであるが,この判定マニュアル導入をどこに促そうとしているのかが明確にされていない.超音波検査に携わり,かつ検診や人間ドックに携わっていれば当然判定マニュアルを目にするであろうから,目にした方々に考えてもらえば良い,導入してもらえば良いという姿勢では消極的過ぎであり,広く普及することは期待できない.
【検診機関の検査レベルは低いのか?】
緒言には「超音波検診の質の向上」という言葉が二度使われている.この質の向上とは検査レベルの向上と言い換えることができ,裏返せば腹部超音波検診の検査レベルは低いと言っているようなものである.国内に数多く存在する検診機関のレベルをどのような手法で解析,評価しての結論なのであろうか.私が検診機関の管理者であれば,このような上から目線的な緒言を読んだだけで導入は見送るに違いない.
【超音波スクリーニングの標準化の根拠は?】
標準化の項でまず目につくのは「◯◯が望ましい」という表現が多いことである.検診施設はその規模や経営状況も様々であることを鑑みてそのような表現に留めたであろうことは想像に難くないが,質的向上と均質化を目的とするのであれば,「望ましい」よりは「◯◯すべき」という指導的表現の方が適切と思われる.また,記録枚数や検査時間等について述べられているが,その根拠となるものを明らかにしなければ説得力に欠けよう.これらの詳細に関しては講演時に述べさせていただく.
【結論】
判定マニュアルを広く普及させるためには,科学的な根拠に基づいた標準化案を再提示し,どこに向かって発信するマニュアルなのかを明確にすることが必要であろう.また,本マニュアルの目的を達成するためには,三学会共通の腹部超音波検診認定施設制度の導入も有効ではないかと考える.